第30回<昭和33年>選抜高等学校野球大会

 大会30周年を記念して第1回大会以来10回以上出場した和歌山中学、海南中学、海草中学3校に表彰楯が贈られた。

<1回戦> 高知商 1-0 和歌山工
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
高知商 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1
和歌山工 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

 和工の大塚投手は癖のない球を投げ一見打ちやすそうに見えるが外角に良いコントロールがあり、またドロップも小さいが効果的で低めに入っていたため高知はこれを打ちあぐんだ。高知からいえば大塚投手の球ならばいつでも打てると思っていたにちがいない。
 事実初回には一死後から小笠原の安打と尾崎のセーフティバント成功と四球で満塁となりながら倉内の投ゴロで好機を逸し、3回にも森光が左頭上を抜く二塁打を放ち三塁を欲張って刺されその後小笠原の二塁打が出るなど高知はついていないとも言えるが、不運であった。
 この間1、2回には和工の守備陣も動揺していたが、再度の危機を切り抜けてからは全員に落ち着きができて高知に圧迫されながらもそれを跳ね返しつつ戦いは白熱していった。
 高知の森光投手は大塚投手と違い横手投げで豪球を投げ特にシュートがよい。和工は彼の内角球を打つのに腰を入れないためいずれもバットの手元に当り会心の当りが出ず前半凡退を繰返していた。後半になり漸く6回、7回に1安打を放ったのみで二塁に達したものがなかった。高知は9回に森光の平凡な二飛が幸運にも二塁手、遊撃手が衝突して落球に生きしかも二塁手があわてて暴投としたため一挙三塁に達し大塚投手はスクイズを警戒しつつ慎重に投げたが柿本の投ゴロをトンネルし、ここに高知に貴重な決勝点を与えた。非力とみられた和工が高知に食い下がってここまで健闘したのは真に立派であった。

<2回戦> 高知商 3-4 海南
  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
高知商 0 0 0 0 1 0 0 1 1 0 0 0 3
海南 0 0 0 0 0 0 1 0 2 0 0 1 4

 海南宗投手は球に伸びがあり外角一ぱいを衝く直球と小さいが威力のあるカーブ、内角に食い入るシュートなどを織りまぜて打ち気にはやる高知打線を抑えた。高知森光投手も内角に入るシュート、カーブを配合しながら味のある球さばきであった。
 海南は6回まで3度も無死走者を出したがものにできなかった。これに対し高知は5回初めて四球で先頭打者を出しバントで送り、次打者森本は走者けん制に入った二塁手の右を抜いて貴重な先取点を挙げた。後半戦に入って両投手若干疲れが見え両軍打棒は活気づいた。即ち海南は7回寺田が二塁打、北野のバントを投手失して好機を迎えた。羽根スクイズを失敗して三塁走者が刺されたが羽根の一打が中前の浅い飛球となり中堅手体勢を崩していたため、本塁に高投遂に同点に持ち込んだ。8回高知は三塁打とスクイズで又もリード、更に9回表氏原が左翼スタンドに本塁打してこれが止めの得点かと思われた。ところが海南はその裏、宗左翼安打続く寺田は三塁手を誤らせ、北野は再度送りバント失敗、幸運にも右翼線上に安打し、これを二塁に悪投したために2者生還遂に延長戦に持ち込んだ。
 12回高知は一死満塁の好機を逃し海南は二死走者を置いて北野の二塁右の飛球を二塁手僅かに及ばずショートバンドで捕る間に二塁走者中野は本塁を陥しいれ海南の辛勝となった。この試合は前半は投手戦後半は打撃戦と内容も豊富であり波乱にとんだ好試合であった。

<3回戦> 海南 2-3 熊本工  
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
海南 0 0 0 0 0 2 0 0 0 2
熊本工 0 0 1 0 0 2 0 0 × 3

 熊本の成田、海南の宗と好投手の顔が合ったので両軍の打線がどんな攻め口を見せるかが注目されたが、熊本の外角うちが海南の機先を制した。宗投手に対して3回から強振の不利に気付いてバットの振りを短くして投球に当てて出ることに意を注いだ。そして二死後、浜が左前安打したのに続いて竹田が2-0のカウントから右翼線二塁打を放って1点を先取した。この竹田の痛打は宗投手の投球の中では一番威力のない外角高目の投球に対して鋭いスイングを加えたもので、この好球を見逃さなかった竹田の眼力は実に鋭かった。
 一方海南は成田のシュートに手を焼きながらも熊本内野陣の失策につけ込んで塁上を賑わしたが、効果的な一打が出ず熊本のリードで前半5回を終わった。
 奮起した海南は6回宇治田が左越二塁打を放って気を吐きバントで三進のあと平野中犠飛で本塁に還り同点とした。尚海南は攻撃の手を緩めず宗四球寺田中堅左に三塁打して形成を逆転した。
 海南宗もこの6回の攻撃で一塁から一挙生還した疾走が響いたのか、これまた疲労の色が濃くなり、6回裏、熊本佐藤二塁打、本田に四球、バントとスクイズで同点とされ更に中犠飛で1点を加えられ、忽ち逆転の憂き目にあった。しかし不屈の闘志を燃やした海南は7回羽根の左前安打と中村のバント野選と両者の重盗で熊本を脅かし3度形勢は逆転するかと見られたが、熊本は榎本を敬遠満塁策をとって併殺、三振に逃げてピンチを切り抜けた。海南がこの逆転機を逃したのは勝運に見放されたといってよく、9回にも一死後2安打を連発しトップに返える好打順を迎えながら反撃できなかったのは気の毒だった。