第41回<昭和44年>選抜高等学校野球大会

<1回戦> 向陽 1-3 三重 
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
向陽 0 0 0 0 0 1 0 0 0 1
三重 0 0 1 0 0 0 1 1 × 3

 三重・上西投手の第一球が甲子園に春を運んできた。左打者の低め、内角寄り。向陽の森本(史)はいきなりセフティ・バントの奇襲に出て戦端は開かれた。だがこれはファウル。そのまま向陽は3者凡退で終わり、立ちあがりはどちらかといえば投手戦。とくに向陽の藪上は得意のシュートが三重の誇る伊藤(隆)、村田の左打者に効果的に決まり、重い速球は1回の村田から2回の池田まで、4者連続投手ゴロに仕留める自信にあふれた投球、もちろん制球はよく、開会式直後の異常なふんいきの中で見上げた度胸である。
 向陽は藪上が落ち着いて投げているのに、打者が委縮がちのスイングで前半は一見打ちそうな上西をとらえることができなかった。それにしてもこのまま藪上と四つに組むのは、三重にとってまずい。これを突き破ったのは9番の島田で、3回一死、右翼線に二塁打した。藪上はつづく大野に死球を与えて、一、二塁、ここで懸念された向陽内野陣がちょっと乱れた。藪上が二塁走者をうまく誘い出しながら二塁へ気の抜けた送球、島田は三盗し、一、三塁から大野もやすやすと二塁を盗んだ。次の辻󠄀に藪上はスクイズを警戒するボール2つ、そのあと辻󠄀は投前にきれいなスクイズバントを転がし、三重は相手の虚に乗じる見事な先取点をあげた。しかし向陽は4回のピンチを切り抜けると、5回にも二死後、三重・辻󠄀の左翼サク越しの飛球を、森がフェンス越しに腕を伸ばしてとらえるファインプレーがあり、全員がのびのびと動き出した。
 そして6回、無死、8番の松村が左翼へ二塁打して反撃に移った。気をよくしている森がうまいバントで三塁へ送り、森(史)がねばった2-3から中前へ快打、試合は振り出しへ。向陽は7回にも2本の安打が出るなど、ようやくペースをつかみかけていた。
 ところがその裏、一死、安打、盗塁の池田を二塁において、三重の中田が遊撃ゴロを打ったとき、送球を受けた一塁手がポロリとこぼす不手際から、三重に決勝点を許してしまった。先取点の火付け役、島田がスクイズに成功、池田が本塁をふんだのだ。
 これで上西ががっちりと腰をすえた。打線も8回、伊藤(隆)、村田がはじめて火を吹き、貴重なダメ押し点、よく走り、バントをねり上げた三重の試合運びは評判どおり、向陽はやはり内野の甘さが命取りとなり、藪上の力投に報えなかったのは惜しまれる。