第30回<昭和23年>全国高等学校野球選手権大会

和歌山県予選

<準決勝> 田辺 4-2 海南
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
田辺 1 1 0 0 0 2 0 0 0 4
海南 0 0 0 0 0 0 0 0 2 2

 田辺は1回四球、安打とバンドで1点を先行、2回には寺本哲、中堅越の本塁打を放ち更に6回には投手強襲安打に続くバンドを海南井上投手が一塁に悪投し捕手の後逸、スクイズなどで2点を加え4-0とリード、海南打棒は田辺寺本投手の巧みなチェンジ・オブ・ペースと好守に阻まれ、9回左前安打で走者一、二塁となり井上左越三塁打を放ち2者生還2点差に迫ったが後続空しく遂に田辺勝つ。

<準決勝> 日高 2-18 桐蔭
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
日高 0 0 0 0 0 0 0 0 2 2
桐蔭 4 0 0 9 3 2 0 0 × 18

 桐蔭1回3安打、2四球、敵失で4点を先取、4回二、三塁打を含む4安打、3四球、敵失などで一挙9点を入れて大勢を決した。日高は9回辛うじて2点を返しただけで桐蔭西村・松島両投手を打てず完敗した。

<決勝> 田辺 2-3 桐蔭
  1 2 3 4 5 6 7 8 9  
田辺 1 0 0 0 0 0 0 0 1 2
桐蔭 0 0 1 0 1 1 0 0 × 3

 田辺は粒揃いの大型チーム。これに対する桐蔭は西村の快速球を頼みに期待通りに好試合を展開した。田辺は1回一死後、恵中四球、投匍失、右翼安打で1点先行すれば桐蔭3回二死後、2安打と1敵失で忽ち同点となり、更に5回三振不死の金丸バンドで二進、捕逸で三進後松島の三遊間安打で生還2-1とリード。更に6回桐蔭広谷の遊匍野手トンネルして一挙三進、続く竹中美の右飛に広谷生還し桐蔭優勢の裡に両軍必死の白熱戦を続けた。最終回、田辺無死走者一、二塁の好機を迎え色めきたったが、三振と遊飛で二死、続く二匍野選で満塁となり四球押出しで1点を返したが、次打者投匍で本塁封殺され万事休し桐蔭に凱歌あがる。最後まで息詰まるばかりの接戦だったが、田辺は強振に過ぎ僅かに2安打を放ったのみ、西村を攻略成らなかったのが敗因といえよう。

<紀和決勝> 桐蔭 8-1 郡山
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
桐蔭 0 0 0 0 0 4 4 0 0 8
郡山 0 0 0 0 0 1 0 0 0 1

 桐蔭西村投手は制球こそ乱れたが、のびのある連休は最後までおとろえず郡山必死の攻撃を制圧した。郡山杣田投手も非力ながら球ののびよく5回まで巧みに桐蔭の攻撃を封じたが、6回に至り遂に崩れ西村の三塁打、金丸・広谷の安打に2個の野選を交え内野の混乱まで加わって4点の大量得点を許した。打撃と走塁に1日の長ある桐蔭の勝利は順当ながら得点に現れた程の差は認められなかった。若し郡山ナインが守備の若さを暴露しなければ杣田ももっと楽に投げられた筈で6回裏大山・杣田・松本の3安打に1点しか挙げられなかった不運と共に惜しまれる。桐蔭は更に7回郡山守備陣の混乱に乗じて4点を加え大勝した。

全国大会

<1回戦> 桐蔭 6-4 小倉
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
桐蔭 0 5 0 0 0 0 0 0 1 6
芦屋 0 1 0 0 1 2 0 0 0 4

桐蔭は2回の先取5点で楽勝するかと思われたが、投手西村の無制球で薄氷を踏む思いをしながらも芦屋の決定打不足に救われて辛勝した。桐蔭は2回長短5安打と1四球、1失策に5点をあげたもののその後8回まで有本の好投に1安打を記録したのみだったが最終回竹中美の適時安打で止どめの1点を加えた。
 一方、芦屋はしばしば走者を出しながら1回無死走者二、三塁のチャンスも僅か四球で1点、6回には二死満塁に中川の適時安打で2点を加えたに止どまり再三のチャンスももう一押しというところをうち込めず敗れた。

<2回戦> 青森 2-5 桐蔭
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
青森 0 0 0 0 2 0 0 0 0 2
桐蔭 0 2 0 0 2 0 0 1 × 5

 
 奥羽代表としての青森は存外整っていたが、試合の駈引において矢張り桐蔭に稍々劣っていた。桐蔭の投手西村の無制球を良く承知して待球策に出たことは賢明だったが1・2回走者を出してからの攻め口を誤り悪球に手を出し好機を逸した。桐蔭は2回に収めた2点も決して芳ばしいものでなくむしろ青森の凡失に乗じたものであった。5回に進み青森は徹底的に球を待って四死球5を奪い押し出しの2点を入れ互角の態勢に盛り返した。
 然しこれも束の間、桐蔭は再び青森の凡失に乗じて2点を加え投手西村を松島に代え四球を警戒しつつ青森を押えていった。青森はチームの漢字もよくボクトツそのままであるが、欲をいえばもう少し気力が欲しかった。

<3回戦> 桐蔭 6-0 函館工
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
桐蔭 0 0 0 4 0 1 1 0 0 6
函館工 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

 函館には桐蔭は目に余る大敵で荒れ気味の西村の剛球に手が出ず攻める術を知らず6回無死満塁を逸し完敗を余儀なくした。桐蔭は4回好打順を迎え松島の安打、竹中美の左翼線二塁打で藤塚の心境をかき乱し尚3安打を集中して一挙4点を挙げ前半にして早くも大勢を決した。

<準決勝> 桐蔭 1-0 西京商
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
桐蔭 0 0 1 0 0 0 0 0 0 1
西京商 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

 西京商は春の選抜優勝校、桐蔭の苦戦は免れないとされたが、これまで薄氷を踏む感があった西村が、この日は予選当時の好調を取り戻し実力を十二分に発揮したのに反して北本は前日健斗のため疲れたのか、やや球威に衰えをみせ桐蔭の当て主義の打撃に攻められ、しばしば塁上に走者を送りその前途にやや不安を覚えた。
 3回桐蔭竹中駿、無死で安打し垣内のバンドで二封、一死後、投手一塁けんせい悪投で垣内二進、金丸の中前安打で三進後、井関三振したが、松島の遊匍失で1点を先取西京商の機先を制した。
 西京商は2回無死一、二塁のチャンスをバント失敗で逃し4回には一死後四球に出て二盗した種田が勢に乗じて小柳の遊撃正面を襲うゴロで禁物の三塁に走り刺されるの愚を繰り返し、尚この回松岡の右前安打で小柳は二塁から本塁に突入し間髪の差でアウトとなるなど訪れた好機を悉く逸し去ったのは惜しまれる。
 桐蔭の勝因は西村の好投に因るもので西京商の敗因は西村を一気に攻略せんとして打ち気に出たため8回の四球に浴しながら遂にこれを生かさず、その上再三に及ぶ暴走とバント失敗でチャンスをつぶしたのと、3回遊撃手の失策も大きくひびいていた。

<決勝> 桐蔭 0-1 小倉
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
桐蔭 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
小倉 0 0 0 0 0 1 0 0 × 1

 小倉投手福島の変化に富む投球と細い身体に対し、立ち直りをみせた西村が特に西京商を完封して優勝戦に臨んだその疲れを知らぬ体力は良き対照を見せ桐蔭は打って取らんとすれば福島は巧みに外して凡打にせしめ、小倉待球して四球にかき乱さんとすれば西村真向から速球を投げ込んで逆に三振に打ち取り、隙をねらうも隙がなく投手戦は愈々佳境、大観衆かたずを呑む。6回裏小倉は2つの四球、1つの死球野選があって二死後1点を先取した。即ち河野のバント一塁手、二塁送球が帰塁かと送ったのが小倉に幸いし、やがて二死満塁の死球がものをいったのであるから桐蔭としては一寸のつまずきが大事を招いたわけである。桐蔭は尻上がりに強さを増しチームに元気もあり野球和歌山の名に恥じない戦い振りで小倉に対し堂々の陣を張ってゆずらず、僅かに1死球に禍されて敗れたがここまで戦えば何の憾むところもなかろう。