第34回<昭和27年>全国高等学校野球選手権大会

県予選

<準決勝> 向陽 2-1 海南
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
向陽 0 0 0 0 0 1 0 0 1 2
海南 0 0 0 0 1 0 0 0 0 1

 向陽海南共に4回までよく攻め再三走者を出したが好守美技に阻まれて波乱なく5回を迎えた。海南土屋三塁頭上に痛打しバントに二進、続く青木初球を三遊間に安打し走者一、三塁、吉田初球をスクイズ敢行、1点を先取した。向陽は1点の負担に8回まで攻めあぐんだが、最終回に至り無死、清水左翼頭上に安打、中谷のバントを野手焦ってハンブルし満場騒然たる中に小藪は悪球に手を出し三振、続く冷水に東は更にインドロを連投ストライクを取りながら左翼頭上に痛打され打球は風に流されて二塁打となり清水生還、同点にこぎつけた。
 ここに大会初の延長戦に入り12回表、向陽冷水三遊間安打、バント、捕逸で三進した後、二出川巧みに第2球を左前安打し決勝の1点を挙げた。勝因としては向陽坂田投手がカーブと絶妙のコントロールで無四球、6安打に封じた好投ぶりが第1に挙げられるが打線もよく振い守備にあっても遊撃中谷の好守強肩、最終回宇藤が安打性の右前ゴロを一塁に刺したプレーなど光っていた。

<準決勝> 串本 3-3 新宮(日没再試合) 串本 0-7 新宮
  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
串本 0 1 0 0 0 0 2 0 0 0 0 0 3
新宮 0 0 0 0 0 0 0 0 3 0 0 0 3

 

  1 2 3 4 5 6 7 8 9
串本 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
新宮 0 2 1 0 0 1 3 0 × 7

 新宮杉本、串本出島両投手の連投で対戦、この日は前日と打って変わり新宮果敢に攻め2回二死後2走者を置いて長嶋の右前安打、岡田卓も中前安打して2点を先取し試合を優勢に運び更に3回裏、一死後、二盗と一塁失に1点を加えた。一方串本は4,5回好機を作りながら決定打を欠いて得点できず、この日の杉本投手の出来栄えは上々といえず毎回走者を出したが前日に変る味方の好守備で阻み、攻めては6,7回疲れを見せた串本出島投手をノックアウトして駄目押しの得点を重ね大勢を決した。串本は長短7安打を放ちながら決定打なく遂に零敗を喫したが強豪新宮を死地に陥しいれた敢闘ぶりは弥賛に値する。

<決勝> 向陽 0-3 新宮
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
向陽 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
新宮 0 0 1 0 0 0 0 2 × 3

 向陽坂田投手は外角を衝く絶好の制球とカーブを得意とすれば、新宮杉本投手は連投の疲れを見せず低目を狙う速球とドロップを配し投手戦を続けた。3回向陽は無死で宇藤右翼右に二塁打、手堅くバントで進んだが、強攻策をとって得点機を逸した。この裏新宮1死山県、投手強襲安打、畑下三振の時二盗、小坂の二匍一塁失する間に先取点を挙げた。5回向陽はテキサス安打に出た二出川をバントで進めたが増田の一打は三塁手の美技に阻めた。後半に入り向陽7回好機を逸したのに反し新宮は一死走者二、三塁に岡田三遊間安打で2者生還、勝利を不動のものにした殊勲を一打といえよう。新宮の勝因は4日連投の杉本が球に伸びがあり低目のドロップがよく決まり好投したのが第1に挙げられる。本大会新宮は当初は好守共低調だったが、此の日は好守共に上出来だった。向陽は4度もチャンスを迎えながらドロップが打ち込めなかったのが最大の敗因であり坂田投手の健闘も全員固くなったためかバックスに失策多く報いられなかった。

<紀和大会> 新宮 1-0 郡山
  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11
新宮 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1
郡山 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

 郡山は2回早水が右越二塁打、3、4回も四球で走者を出し新宮も3回表、長嶋が左中間に二塁打を放ったが、何れも後続なく一進一退のまま前半を終わった。この間郡山の樽野が広い守備で再三難飛球を好捕すれば新宮川﨑も6回村田の安打性直球を転倒しながら手中に納める美技を演じて相譲らず両軍投手の好投で試合は予想に違わぬ白熱戦となった。新宮は7回無死満塁となったが宮本の遊直で小坂ダブラれて一瞬にしてチャンスを逸した。8回にも一死後、岡田卓左前安打、山県左越二塁打したが後続空しく9回にも一死満塁と攻め立てながら決定打が出ず、郡山もその裏無死安打の走者を出したが無為、息詰まる緊張の中に延長戦に入る。11回に至って新宮二死後岡田卓の右前テキサスに遂に決勝の1点を挙げ新宮は押し切った。

全国大会

<1回戦> 新宮 1-0 法政二
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
新宮 0 0 0 0 0 1 0 0 0 1
法政二 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

 3回まで波乱に富んで法政が押していた。即ち法政が立ち上り杉本投手を鋭く攻め1回二死後から大石、斉田の連安打で一、三塁と脅し2回には遊失、内野安打バントで二、三塁の好機を迎えたがここでベンチはスクイズさせたが、これを外されて三塁走者アウト。中谷遊匍に退いてリードすることができずに終わった。受身の新宮は3回無死で岡田卓が左翼線二塁打に出て反撃のチャンスはあったが離塁大きく捕手の送球に刺され互いに得点機をつぶしていた。4回から杉本の伸びのある速球とカーブを併用した投法で打力を誇る法政を抑えれば、中谷また乱れ気味の投球が却って効を奏し投手戦の様相を呈し互角の形勢で6回となった。新宮は岡田卓殊勲の左中間三塁打が出て山県も四球、ここでスクイズを警戒した法政の捕手は畑下打者の時離塁の走者を刺さんとして三塁送球したのがはずれバックアップした左翼手の好送球で岡田卓を刺しピンチを脱したかにみられたが、精神的に動揺したのが捕手石川が3球目の低目にはずしたボールをハンブルする間に山県の生還を許し、これが致命傷となって懸命の追撃も空しく敗れた。それにしても法政の1,2回の逸機は惜しまれるが新宮を勝利に導いた杉本投手の健闘と岡田卓の快打は頼もしいものがあった。

<2回戦> 新宮 0-2 芦屋
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
新宮 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
芦屋 1 0 0 0 0 0 1 0 × 2

 新宮は力一杯闘ったが勝運なく惨敗した。前半しばしば訪れたピンチも全員必死の好守に芦屋を1回1点にとめたのは新宮の高校球児らしい闘志を現わし立派なものであった。杉本投手は決して不調ではなかったがその直球は何れも芦屋の攻撃を封じるには今一歩球威を欠いていた。芦屋は1回二死後から土河が左中間を破る三塁打を放ち左翼からの中継に出た遊撃への送球が悪投となる間に一挙本塁に突込んで貴重な先取点を挙げ、更に7回にはこれも二死後から堀口の当たりそこねの内野安打で石本を迎え入れてダメ押しの追加点を挙げた。植村はこの日も投げ下しの速球とブレーキの鋭いアウドロで好投し新宮を僅か4安打に抑えて芦屋の勝因を作ったが、各回に亘る芦屋の攻撃ぶりには非常に無造作なところがあり自らの力を過信して慎重さを忘れたことがかく苦戦を招く原因となった。