第37回<昭和30年>全国高等学校野球選手権大会

県予選

<準決勝> 田辺 3-0 県和商
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
田辺 0 0 2 1 0 0 0 0 0 3
県和商 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

 3回田辺は輪宝四球、二死後、中村カーブの曲り鼻を見事に合わせ左翼フェンス越えの2ランホーマーを放って気を吐き更に4回無死満塁、竹中の投匍で走者は本塁封殺されたが輪宝の安打で大江生還して1点を追加、試合を決した。県和商は田辺大江投手に封じられ3安打を散発したのみで良いところなく敗れた。

<準決勝> 新宮 2-0 和工
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
新宮 1 0 0 0 0 0 0 1 0 2
和工 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

 新宮前岡は内角低目の直球とインドロに冴えをみせ、和工を抑えノーヒット・ノーラン、三振13を奪うという会心のピッチングを示した。一方和工の西谷はカーブを多く投げてバックスの好守と相まって1回に破たんを見せた他は新宮に乗ずる隙を与えなかった。新宮は1回表、岡根遊撃右に安打、バントに二進後、けん制悪投と中堅手の三塁送球悪投により一挙生還、更に8回庵野の適時安打で1点を加え勝利を不動のものにした。
 和工は5回と9回にチャンスがあったが剛球前岡に対して余りに強振にすぎて無為に終った。

<決勝> 新宮 1-0 田辺
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
新宮 0 0 0 0 0 1 0 0 0 1
田辺 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

 好調の新宮前岡投手に対して田辺大江投手もよく投げ5回まで両軍0-0、6回新宮岡根右越三塁打を放ち、次打者西浦は大江のカーブにかかり三振、庵野スクイズ失敗して三塁走者憤死せしめ既に2死、チャンスを失ったかと見えたが庵野低目の直球を左翼頭上を抜く二塁打し前岡四球後、亀井の遊匍低投で庵野ホームをつき貴重な1点を挙げこの1点が結局ものをいった。この日生憎南西7mの強風が中堅から砂塵を吹きつけ両チーム共苦しんだが予想通りの投手戦となり田辺には3階浦、大江四球、浜中三遊間安打に出て無死走者一、二塁の絶好機があったが続く3者三振に仆れた他チャンスらしきものなく敗れた。

<紀和決勝> 新宮 1-0 高田
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
新宮 0 0 0 0 0 0 1 0 0 1
高田 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

 試合は投手戦で進んだ。新宮前岡は左上手からの速球とドロップ。高田渕田は右下手からの内外角にシュートとスライダー気味の球で夫々の打線を抑えた。前岡は冒頭の抑えが利かずトップ打者を四球で出し、バント戦法で三塁まで許したが福田を三振せしめ危機を脱して以来尻上がりに調子を上げた。渕田もよく前岡と互角に渡り合っていたが6回頃から疲れたようだった。新宮はそこを逃さず7回先頭の浜田が三遊間を抜きバントで送られ二死後、西浦の中前適時打で間一髪の差で還えり貴重な快勝への1点を挙げた。高田にとって惜しまれるのはそれまで再度美技を見せていた中堅木南が西浦の中前安打を僅かにジャックルし本塁投球が遅れたことと、もう一つは渕田と同じ程度の力量の投手成瀬との交代の時期が遅れたことであろう。

全国大会

<1回戦> 新宮 3-2 浪華商
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
新宮 0 0 1 0 2 0 0 0 0 3
浪華商 0 0 0 0 0 0 0 0 2 2

 今大会屈指の好取組であるこの一戦は新宮3-0とリードして完勝と思わせたが9回裏浪華商古市の三塁打で1点差に迫り8万の大観衆を湧かせたけれども強引な戦法は、遂に新宮を抜けず惜しくも敗れた。
 新宮勝利の立役者は投打に活躍した前岡である。3回二死後、前岡が左中間に長打して1点先行し5回再び庵野、前岡の好打で試合の主導権を完全に握り浪華商の敗色は濃くなった。即ち一死後、岡根四球で先発の谷本を退けて広島を迎えた。新宮は更に1点を追加すべくバントを敢行二進させた作戦功を奏し庵野の二塁強襲安打で1点追加、やや動揺した広島の心中を狙うかのように前岡1-1後再び左中間に長打して更に1点追加、この5回の攻防が勝敗の分岐点となってしまった。浪華商は四球で走者を出しながら決定打なく最終回一死後、厚朴安打、池田四球の後、古市右中間三塁打して2点、尚同点のチャンスだった。
 竹内は第1球スクイズしたが走者がスタート悪く本塁でアウト。杉山四球に続き勝浦打者の時勝敗を一気に決すべく強引な重盗を敢行して成らず新宮は堂々優勝候補を破る殊勲を立てた。浪華商にとってはスクイズといい重盗といい焦りがあり8回まで余りに攻撃に無気力であった。前岡は快調という程のでき栄えでなかったが、荒れ気味で却って浪華商打者を惑わすのに役立ったかも知れない。何れにせよ優勝候補随一の浪華商に快勝した新宮ナインの喜びは察するに余りがある。

<2回戦> 新宮 2-0 小倉
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
新宮 0 0 0 0 0 1 1 0 0 2
小倉 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

 予想通り申し分ない投手戦に始まった。第1戦に浪華商を破った新宮前岡投手は制球力ある投手で小倉打線に乗ずる隙を与えなかった。小倉の畑もスピードこそ前岡より心持ち劣る様であったが巧いピッチングでこれも前半危ぶなげなかった。そこでこの優秀な両投手に互の打線がどのように襲いかかるか、この良否がゲームを左右するポイントとなった。
 新宮4回二死走者を置いて対浪華商戦に猛打を発揮した前岡は敬遠の四球を与えられ後続を絶たれた。しかし6回二死後から曲者庵野が2-0後外角外れ気味の球をよくミートして二塁左を抜いて出塁、続ぐ前岡に畑は勝負に挑んだが前岡は1-2後の好球を逃さず大きく右翼左を破る三塁打して畑に打ち勝ち庵野を迎え入れた。老練な畑がなぜ敬遠しなかったかと誠に惜しまれる一投であった。この一投を境にして両チームの志気に差を生じ新宮は7回筒井の中前適時打で1点を加えた。小倉はバットを長く持って徒らに強振していたのは拙く新宮の勝利は前岡の投打に亘る活躍にあったが全員が何んとかしてチャンスを生み出そうとする盛んな闘志をたたえたい。

<3回戦> 新宮 0-6 中京商
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
新宮 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
中京商 0 0 0 0 5 0 1 0 × 6

 浪華商、小倉と優勝候補をなき倒した新宮はこの日は中京のバント攻めに混乱し前岡の好投も空しく敗れた。中京商1回3者三振、打者一巡するまでに7三振を喫してこの調子で歯が立つまいと思われたが、そこは試合巧者の中京商、4回よりコツコツ合わせ始めた。5回まず渡辺四球、鈴木とのヒット・エンド・ラン成功して無死一、三塁となりスクイズで1点。長坂も三前バントして内野安打となり、高田のスクイズバントを三塁手本塁に投じたが捕手落球して鈴木生還。岩本尚バント企てたのを投手一塁へ悪投して2者生還、桃原の三遊間安打で又1点計5点を挙ぐ。このあたり中京商のしぶとい攻め振りが功を奏し、試合巧者中京商の面目躍如たるものがあった。
 新宮としては魔の5回といえよう。6回中京商長坂が四球を出したとき安井をリリーフに送り弱い投手力をカバーした継投策もタイミングよく当っている前岡を徹底的に警戒して新宮に反撃を与えなかった周到な策も中京の勝因と言ってよかろう。このため当りの出ていた新宮も手の施す術もなく中京捨身の試合につぶされ雄図空しく挫折した。