第46回<昭和39年>全国高等学校野球選手権大会

県予選

<準決勝1> 桐蔭 3-1 橋本
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
桐蔭 1 0 0 0 0 0 0 2 0 3
橋本 0 0 0 0 0 1 0 0 0 1

 準決勝にふさわしい力のこもった一戦だったが、打棒快調の桐蔭が、力投する橋本・広畑投手を終盤に圧倒した。
 1-1で迎えた8回表、先頭はこの日2安打の当りや松本、初球をいきなりたたいて左中間を深く破る三塁打、一死後嶋村も左翼頭上を抜く三塁打でまず1点。次打者横山の2球目、スクイズを見破られ嶋村三本間にはさまれたが、捕手の三塁悪投で生還し、勝負を決めた。
 橋本は5回まで桐蔭・高本投手におさえられ、2安打しか打てなかったが、6回からの反撃ぶりはすごいファイトが見られた。この回栗林四球、榎本・古井の幸運な内野安打が続き無死満塁のチャンス。ここで高村投手がスクイズを警戒して投げたウエストボールが、暴投となって栗林がかえり同点。なおも追加のチャンスだったがスクイズサインの手違いで三塁をとび出した榎本が刺されたうえ、田中の三塁線安打で二塁から本塁をうかがいかけた古井が好返球で三塁に刺され折角の盛上りをつぶしたのは惜しまれる。
 橋本はさらに7・8回にも一死三塁の走者を強攻策の失敗で生かせなかった。橋本の試合はこびがもう少しうまければ、逆転していたかもしれないが、これをよく防いだ桐蔭の堅い守備は立派だった。

<準決勝2> 海南 14-0 市和商
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
海南 1 0 2 0 2 0 4 5 0 14
市和商 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

 春の甲子園出場校同士の対戦はこの日最高の呼びものだったが、市和商は攻守とも精彩を欠き、岩崎投手もカーブが高めに浮くのをねらわれ日頃のさえがなく、海南の一方勝ちとなった。
 海南は1回、四球に出た浜井を三塁において山下が遊撃左に内野安打してまず1点。3回にも小川四球のあと栗田の中前安打を野手後逸する間に小川・栗田が生還し2点を追加した。5・6・8回にも大量点をあげて引離した。
 一方市和商もファイトを出して戦ったが直球・カーブを巧みに投げ分ける山下投手を打てず、1回の二死走者三塁、4回の二死一、三塁のチャンスも生かせず、7回から代った川端にも押えこまれて大敗した。

<決勝> 海南 2-0 桐蔭
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
海南 0 0 0 1 0 1 0 0 0 2
桐蔭 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

 海南・桐蔭高ナインが持てる力を一ぱい出しきって、大会最後を飾るにふさわしい衝突となったが、海南・山下投手は直球に一段とスピードが乗り、時折りカーブとシュートを織りまぜる見事な配球ぶりを見せ強打桐蔭を完封、打線も4本のヒットを生かして2点をあげ、堂々宿敵を振切った。
 桐蔭は2回、松本が右中間安打、井口右飛のあと、前日の殊勲者嶋村が左中間に強烈な当たりを見せ、中堅手栗田がハンブルする間に二進、走者二、三塁と攻めたてた。
 しかし続く横山は外角速球を空振り三振、高本四球で二死満塁と期待をつないだが、田中が2邪飛に打取られ絶好のチャンスを失った。
 3回まで無安打に押さえられた海南打線が火を吹いたのが4回、一死後、川井が高本の外角直球にバットをあわせば、球は右中間を抜く二塁打、続く当りや山下を迎えて桐蔭ベンチは緊張したが、山下は内角カーブをたたいて三遊間を抜き、左翼田中からの返球を三塁手がカットする間に、川井が頭からホームベースに飛込んで生還、先制の1点をあげた。海南は6回にも敵失に乗じて2点目をあげた。先頭の浜井が四球で出塁、栗田の犠牲で二塁に進んだあと、川井が外角の速球を右翼線に痛打、これを右翼手がジャックルする間に浜井が生還したもの。この追加点が桐蔭の死命を制した。
 しかし桐蔭の追撃も急、6回は二死後谷村が三遊間安打、7回にも一死後嶋村が敵失で出塁して懸命な反撃をみせ、最後までねばり強く戦ったが、球運はついに桐蔭に恵ぐまなかった。3回以後は、わずか1安打、山下投手の低目の球をいたずらに大振りして凡フライを打上げる攻撃を繰返していたのは、強打を誇る桐蔭としては不覚であったろう。

<紀和決勝> 海南 4-2 天理
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
海南 1 0 1 0 0 0 2 0 0 4
天理 1 0 0 0 0 0 1 0 0 2

 しんどい試合だった。常勝海南にとってこれ程苦戦したことはなかった。山下がいまひとつ調子が悪く、救援した川端も右人差し指が痛んだまま、だが天理を上回るファイト、敵のエラーにつけこむ巧みな攻めはさすが、海南の7回にあげた2点が決勝点となり、追いすがる天理を振切った。
 初回、海南は見事な先制攻撃をみせた。先頭の浜井は2ゴロで一死となったが栗田は立ちあがり制球力のない外山からストレートの四球、つづく川井は三遊間を抜いた。栗田好走して三塁へ。川井も送球間にすかさず二塁へ進んだ。山下が1-1後の直球をたたけば、高くあがった中飛。三塁走者栗田がホームを踏んで先制の1点をあげた。
 天理もその裏、反撃を開始。やや堅くなったのか、山下は自慢の速球にスピードが乗らない。先頭の荒川が左中間を深々と破る三塁打、たちまちピンチに立った山下は難波を捕邪飛、次づく小柳をスクイズ失敗のスリーバンドで三振させた。これでほっとしたのか、4番角田に初球を中前打され、同点に追いつかれた。
 しかし海南は3回の巧みな攻撃で追加点をあげた、一死後川井が遊撃強襲安打に生き、山下はやや敬遠ぎみの四球、つづく南口が中前にテキサス打して一死満塁、つづく川端は2-3からボールぎみの球をスリーバント失敗。チャンスは去ったかと思われたが、柴田打席の時の第1球目外角のタマを細川捕手が後にのがして川井が三塁からホームを踏み、2点目をひろった。
 チャンスの後にピンチあり。山下はどうもいけない。3回またも荒川に左翼線二塁打された。ベンチは切札投手川端にスイッチ。栗生監督自慢の継投策だ。あせる天理は難波がヒットエンドランをはかったが、難波は三振、三塁にすべり込んだ荒川も南口からの送球を受けた寺坂が巧みにタッチアウト。川端は期待どおりのリリーフぶりを見せた。
 海南は5回も好機をつかんだ。一死後山下は左前安打、南口も四球を選んでつづく。そこで天理ベンチは外山を思い切って永崎をマウンドに送った。両軍虚々実々の攻防だ。川端三振後柴田は二遊間を抜くヒット。球は中堅まで転がったが、二塁走者山下は慎重に三塁でストップ。次く寺坂の一発をまったが寺坂は惜しくも遊ゴロ。絶好機を逃した。6回には二死後栗田が中前安打後二盗失敗。しかし7回ついにだめ押し点をあげた。この回川井遊ゴロ一死のあと、山下はこの日2つ目の四球、南口遊ゴロで山下二封されたが、川端は期待にこたえて一、二塁間を抜くヒット。柴田の三ゴロは佐竹がこぼして満塁、次く寺坂の三ゴロは一塁投球がワンバウンドの低投となってセーフ。三塁から南口還って1点、動揺した永崎投手がつづく小川にストレートの四球を出して押出し、川端がホームを踏んだ。
 天理も必死に追撃する。その裏、川端のシュートを佐竹が中前打、つづく代打山口に四球を与えて無死一、二塁、絶対のピンチ、細川を中飛に打ち取ってほっと一息ついたが、つづく永崎に四球をえらばれて一死満塁。荒川に一塁線に絶好のスクイズを決められて1点をばん回されたがこの回は難波を三振させきり抜けた。しかし天理も8、9回、必死に追撃してきたが、川端力投し得点を与えなかった。ウイニングボールが南口のミットに入った瞬間、海南4たび甲子園出場が決った。

全国大会 8月9日~18日

<2回戦> 海南 4-3 修徳
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
海南 0 0 0 0 0 0 3 1 0 4
修徳 1 0 0 1 0 0 0 1 0 3

 修徳は東京代表にふさわしい力のあるチームだったが、不運から強チーム海南を倒せなかった。エース成田は、評判通りの好投手で、速球、シュートを思い切って内角へ投げ、打力を誇る海南を、6回までわずか2安打におさえていた。だが後半変化球に頼ったために海南の反撃にあった。
 2-0とリードされた海南は、7回川井、山下が内角のシュートを強引にひっぱり、ともにバットが折れてテキサス安打、南口が送って、一打同点のチャンスを迎えた。寺坂はスクイズを2度ファウルして2-1と追い込まれたあと、外角のドロップを食いつくようにして遊撃右を抜いて川井をかえし、なお一、三塁とチャンスは続く、ここで海南は川端に手堅くスクイズさせて同点とし、寺坂も三進、柴田が同じように2-2後の外角球を遊撃左へ内野安打して逆転に成功した。8回にも栗田、川井の長短打で1点を加えて2点の差をつけた。
 修徳にとって惜しまれるのは、1、5回の追加点機を逸したことだ。1回山下から押出しの1点を奪ったあと、救援の川端にはスクイズ失敗から併殺、5回は永妻、原の長短打でつかんだ好機に、相原の一打が二直となり原とともに併殺でつぶれたことだ。ベンチとしてはスクイズか、強打させるか決断のむずかしいケースだったが結局打たして失敗してしまった。
 修徳は8回せっかく1点差に迫り、9回無死一、二塁のばん回機を迎えながら、焦りから走塁を失敗、追抜ける好機をつぶして敗れた。

 

<3回戦> 海南 1-5 早鞆
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
海南 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1
早鞆 0 3 1 0 0 0 0 1 × 5

 やや同型と思われる右投手同士、どちらが投げ勝つかが勝敗の分岐点とみられた。海南は1回によいチャンスをつかみ、ここで先制点を奪うのではないかと見られたが、やや拙攻で機会をのがし、かえって2回早鞆に先手を打たれてしまった。早鞆は紺谷宏、亀井の死四球で好機をつかみ、荒木・竹内の適時打で3点を先取したのは大きかった。
 これがため海南は大分気勢をそがれたし、早鞆の意気は上った。早鞆は初回から勝気満々で、評判通り準決勝へ進んだ。海南は最終回大いに奮起し、山下の長打を生かして1点をばん回したが、日暮れて道遠しの感、遂に早鞆の前に屈した。
 技量の比較からすればそう差はないのであるが先手をとったのと後手に回ったのとでは気力の燃えあがるものと、しぼんでしまうものがあり、気力の旺盛なものはチャンスにも強くなる。早鞆は3回にも尾篭が中超えに長打して遂に先発の山下を退け、腰を痛めている川端を早々と引出した。
 大量点を背にした早鞆亀井投手は疲れを見せながらも気力をふるいたたせ、慎重に投球を散らして海南に乗ずるスキを与えなかった。天晴れな投球というべきであろう。いかなる悲境に立ってもあくまで食いさがる粘りを養うことこそ重大な問題であるようだと思う。シンの通っていない形式技術では9回のうち必ずくずれを見せるものである。
 技をみがくものに大切なことは第一に心の用意であり、野球をやるなら心の野球からはじめることが肝要であろう。
 さて救援した海南川端投手も下手からの巧い投球を見せたが亀井の快椀に打力を封ぜられ、しかも8回中村に左翼深々と止めの一発をきっしてついえ去った。