第42回<昭和45年>選抜高等学校野球大会

<2回戦> 箕島 6-2 東海大相模
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
箕島 0 0 1 1 0 4 0 0 0 6
東海大相模 0 0 0 0 2 0 0 0 0 2

 3割打者が力比べの興味を呼ぶ対戦だったが、結果は箕島のパワーが上回った。とくに、相模がようやく同点に追いついたとたん4点をあげてリードした攻撃は、箕島の力を十分見せつけたものだった。
 6回の箕島は、島本が一塁手のエラーで生きると、送りバント、在本は初球外角寄りのカーブを右中間へ二塁打し、中村も中堅深く三塁打して追撃、意表のスクイズで加点したあとまた長短打をたたみかけて計4点を奪取する猛攻だった。
 上原のカーブのコースが少し甘くなるのを逃さずたたみかける箕島の攻撃はさすがだった。
 試合は3、4回箕島が1点ずつあげて先行。一方の相模は初回の二塁打と捕逸の一死三塁のチャンスを逸したあと、3、4回にも得点圏に走者を送りながら、カーブ、速球を慎重にコーナーに送る島本から決定打が奪えなかった。
 しかし5回、相手の泣きどころ、捕手の弱肩をつく盗塁の攻撃で追いついた。死球の上原の盗塁は失敗したが、二死後四球の井尻は島本の牽制球をかいくぐって二盗、田中秀の内野安打と一塁の悪送球で生還。さらに三好の右前打と悪送球で同点。相手のしつような盗塁が、箕島のバッテリーと守備陣の動揺を引き出した。
 後半の乱戦を予想させただけに6回の箕島の4点は効果的だった。さらに肩の不安を持たれた中谷が、6、7回の無死走者の二盗を殺して中盤制球を乱かけていた島本を助けたのも大きい。
 相模は7回二死一、三塁、9回にも二死満塁と詰め寄ったが、最後まで打線が爆発しないで終わった。とくに後半、しばしばいい当たりが野手の正面をついたのも不運だった。

<3回戦> 三重 1-4 箕島
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
三重 1 0 0 0 0 0 0 0 0 1
箕島 1 0 0 2 1 0 0 0 × 4

 大方の予想は総合力で三重やや有利、しかし前半の形勢は逆だった。ことに1回裏箕島のトップ田中が決めた本盗は、試合の流れまで変えてしまった。
 先制は三重、いきなり西村が左越え二塁打を見舞ったあと一死から大知が外角球をうまく右前へ流し打って西村を迎えた。だがその裏の箕島の反撃は常識を越えていた。二塁内野安打の田中はバントと一塁ゴロで三塁へ、次打者は箕島打線中、最もうるさい島本、しかしカウント2-2の6球目、すばらしいスタートを切った田中は本塁に成功した。
 本盗などの奇策は、1点を奪う終盤に試みる捨て身のもの、それだけに田中の本塁はウラをかく頭脳的プレーだった。大知は前日の対堀越戦に続いて連投、島本は中2日おいての登板、この条件差が微妙に現われた。箕島は思い切りがよく、足とバントをうまくからませた。4回在本の安打を足場に一死後、中谷にバントさせ中が中前に適時打。中の二盗のあと、ヒット・エンド・ランを敢行、田中の一打は中前テキサス適時打となって2点差。5回には中村の中前打で加点。逃げ切りの態勢に入った。
 一方の三重は攻守ともに、これまでの2試合ほど安定感がなかった。バントをはさむ3つの四球で迎えた4回一死満塁の好機に2-2から藤川にスクイズを命じたが、この奇手は藤川が空振りの三振、三塁走者伊藤は三本間に挟殺されるという最悪の事態を招いた。このあたりに三重の迷いが感じられた。

<準決勝> 箕島 3-0 広陵
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
箕島 0 0 0 0 0 2 0 1 0 3
広陵 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

 箕島は佐伯攻略への闘志を1回から爆発させた。トップの田中は中前安打、川端は初球バントに失敗したが、東田が右前安打で激しく佐伯をゆさぶった。一死一、二塁で打者は期待の島本、島本は気負って三振して二死となったものの森下四球で早くも二死満塁。ところがフルカウントから打った在本は一塁ゴロ、箕島は絶好の先制機をのがした。
 島本、在本の打った球は見逃せばボールだったかもしれないきわどいもの。ここは打った打者よりも振らせた佐伯をほめるべきかもしれない。
 その後速球主体"力"の佐伯とカーブ主武器に"技"の島本は、それぞれの持ち味を出して渡り合った。前半の5回まで佐伯の許した安打は4、島本2にみられるように、箕島やや押し気味に試合を進めた。そして6回ついにそれまで23イニング無失点を誇っていた佐伯から2点をもぎとった。
 右前安打した東田に続いて島本遊撃ゴロ失を誘い出して無死一、二塁、さらに森下の2球目に捕逸が飛出して得点機は無死二、三塁とふくらんだ。森下が投前にうまいスクイズ・バントを決めて東田をかえし、在本も右犠飛して島本を迎え入れた。
 活気づく箕島打線にくらべて広陵打線は島本の変化球に目先を狂わされて沈黙。7回、乱れをみせた島本から3四死球を得て二死満塁と詰め寄ったが、木村三振して絶好の反撃機も実らなかった。
 島本の力投をささえ優位に立った箕島は、8回無死中前打した東田を島本が左中間三塁打でかえしてダメを押した。
 広陵は土壇場の9回に迎えた一死一、二塁という3度目の得点機に佐伯のヒット性の当りが遊撃手・田中の好守にはばまれたのは不運。
 投打に活躍した島本を軸に箕島は額面どおりの猛打をみせたのに対し、広陵は頼みの佐伯が打ち込まれ、おまけに打線が3安打散発に封じこまれては、この敗戦もいたしかたがなかった。それにしても8四死球を出しながら最後まで広陵につけ入るスキを与えなかった島本の力投と田中の好守、さらに箕島の打力は、あっぱれというほかない。

<決勝> 北陽 4-5 箕島  
  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
北陽 2 0 0 0 0 0 1 0 0 1 0 0 4
箕島 0 0 0 1 2 0 0 0 0 1 0 1 5

 ゲームの展開は北陽が立ち上がりに鋭く攻め込んで先手をとった。その先取点をたたき出したのは二死満塁から左前へ快打を放った多田である。箕島島本投手は二死をとるまで実に好調なすべり出しであったが強打の才田を迎え、あまりにも警戒しすぎて歩かせたのが、つまずきの原因となり、神垣に中前安打されたあと門田に死球を与えてますます動揺、制球力に苦しむところを多田にうまくねらい打ちされた。
 北陽は前日の鳴門線でもあざやかな先制攻撃をみせたが、チャンスをものにするのは実にうまい。島本は2回にも無死で連続四球を出し、3回は2安打され、苦しいピッチングが続いた。しかし回を重ねているうちに落ち着きを取り戻し、得意のカーブとシュートがコーナー低めに決まりだした。
 これとは逆に北陽の永井投手は4回、味方守備陣のミスから箕島に1点を返されてから動揺の色がみえはじめ、5回一死後田中に左越え二塁打を打たれ、四球に出した川端とのダブルスチールを許して一死二、三塁のピンチを招いた。東田を浅い中飛に打ちとったあと、島本に右前安打され逆転されたわけだが、この一打はバットがつまっていたため球がのびず、島本の強打を計算にいれて深く守っていた右翼手の目測を誤まらせたもので、箕島にとってはまことに幸運なものであった。
 これで優劣が入れ替わり、箕島が逃げ込みに入ったトタン、こんどは箕島が守りにぐらつきをみせてしまった。7回併殺をあせった二塁手のエラーからはじまった箕島の危機は多田が0-3から裏をかいて敢行したスクイズが外角低めにはずれるカーブのむずかしい球であったために空振りとなり神垣を3本間で刺して脱したかにみえた。ところが打者永井の3球目に三盗を企てた門田を刺そうとした捕手の送球が悪く、左翼へ球が転々とする間に門田が生還して同点となった。
 守備の堅さに定評のある両校ではあるが、野手がコチコチになっていることはこのゲームがいかに緊迫していたかを物語っている。とにかく一投一打に、はらはらさせながら延長戦に持ち込まれ、10回北陽の成海が左翼線へ痛烈な二塁打を放って、四球の永井を迎え入れたときには勝負あったかにみえた。しかし、その裏箕島は二死一塁で森下が二塁打を放って再びタイとなり熱戦は続いた。
 永井-島本両投手の疲れをみせない力投で試合はいつ決るかわからない情勢であったが12回一死後川端が左翼線二塁打して得点機をつくり、二死から島本が1-0後真ん中高めの球を右翼へ殊勲打して4時間15分に及ぶ大接戦にピリオドが打たれた。島本には5回にも逆転打されており、ふたたび強気に出たのはまずかった。塁があいているのだから歩かせてもよかった。
 敗れた北陽は優勝のチャンスを逸して残念であったろうが、全力を尽くして戦ったのだから悔いはない。実に立派な戦いであり、両校の健闘を心よりほめてやりたい。