第67回<昭和60年>全国高等学校野球選手権

和歌山大会

<準決勝> 和歌山工 2-0 箕島
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
和歌山工 0 1 0 0 0 0 0 0 1 2
箕島 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

 和歌山工は箕島の好投手西原から9安打を奪って打ち崩し、森岡投手も再三ピンチに立ちながら要所を押さえて力投、箕島を完封した。
 和歌山工は2回、先頭打者有田の死球を足がかりに、山下が三遊間安打を放って一死一、三塁と好機をつくり、信定の中堅への大きな犠飛で有田が生還、先制点をものにした。9回には左中間に二塁打を放った貞包を山下が投前バントで送り、信定が中前適時打を放って貴重な追加点をあげ、下位打線の勝負強い打撃が光った。
 箕島は8、9回を除いて毎回走者を出しながら、好機に一発が出なかった。4回、先頭打者岩崎が左前安打を放ち、左翼失で二塁まで進み、坂本の犠打で一死三塁と攻めたてた。しかし、九鬼がスクイズを試みたが空振り、岩崎が三本間にはさまれアウト。7回にも森川の安打などで二死二、三塁としながら、原井のいい当たりが投直となるなど、森川投手を打ち崩せなかった。

<準決勝> 田辺 3-2 高野山
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
田辺 0 1 0 0 0 0 0 0 2 3
高野山 0 0 0 1 0 0 0 1 0 2

 田辺、高野山の4投手がそれぞれ持ち味を出して好投し、1点を争うシーソーゲームとなったが、田辺は9回、高野山の本格派投手、山田の速球を狙って3連打を浴びせ、逆転勝ちした。
 田辺は9回、四球の高山を森が投前バントで送って一死二塁とし、岩本幸が右翼線へ二塁打を放って高山が生還、土壇場で同点に追いついた。さらに硲の左前安打で一死一、三塁とし、菅井のバントが遊前に転がって内野安打となる間に岩本幸もかえり、決勝点を奪った。
 高野山は8回、前川の右前安打、盗塁、森脇の遊失で一死一、三塁の好機に、休場が一塁前にスクイズを決め、内野安打となる間に前川がかえり、一時は勝ち越した。しかし、三塁に走者を進めた2、6回の好機に一発がでなかったのが最後まで響いた。

<決勝> 田辺 1-2 和歌山工
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
田辺 0 0 1 0 0 0 0 0 0 1
和歌山工 0 0 1 0 0 1 0 0 2

 和歌山工にとって苦しみ抜いての勝利だった。3回表、1点をとられたあと、すぐ同点に追いついたものの、ずっと田辺に押され気味だった。6回一死で森岡が打席に立った。投打のかなめのはずの森岡も、大会に入って打撃が不振だった。「僕がなんとかしなくては」。森岡はバットを振り切り中前へはじき返した。続く有田は四球を選んだ、そして、この大会で4割を打っている貞包の当たりが右前にポトンと落ちた。「やった満塁だ」
  岡田監督は次打者の山下に「外野フライでいいから思い切り行け」とハッパをかけた。前の打席にスクイズを失敗している山下は「高めの球が来たら力いっぱい振ろう」と打席に立った。1球めのボールのあと、高めの直球が来た。「カーン」。打球はぐんぐんのびた。深い位置で中堅手の高山が捕った。「ゴー」。三塁コーチの西田の声に、三塁から森岡が必死に走った。返球は来なかった。森岡はガッツ・ポーズをしながら本塁を踏んだ。「やった。勝ち越しだ」。ベンチの緊張した空気もやっとやわらいだ。
 「逃げまわるな、バックを信頼して向かって行け」。岡田監督の指示通り、リードしてから森岡の制球も一段とよくなった。捕手の山下は8回、右人さし指のつめをはがしながらも好リードを続けた。9回、自分の失策で危機を招いた遊撃手の石井があざやかに併殺を決め、勝利を導いた。
 一戦ずつ力をつけてきた田辺もよく戦った。3回、2番田辺が四球を選んだ、そして森岡のすきを見て二塁へ盗塁した。この大会で当たっていない高山がすかさず左前へ打ち返した。一死一、三塁だ。「田辺が大将。田辺が大将」。応援団の歓声が球場を包んだ。「森、頼んだぞ」。4番の森は球を思い切りたたいた。「しまった、併殺だ。ゆるいゴロを三塁手が取って二塁へ送球した。「アウト」。森は必死に走った。一塁は「セーフ」。すでに三塁から本塁を踏んでいた田辺は「やった。1点取ったぞ」跳び上がった。
 しかしその後、毎回のように走者を出しながらあと一発が出なかった。和歌山工の好守の前に田辺の創部88年目の甲子園の夢はかなわなかった。

全国大会

<2回戦> 海星 11-1 和歌山工
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
海星 0 1 3 0 4 0 0 1 2 11
和歌山工 1 0 0 0 0 0 0 0 0 1

 巧みなバント、優れた選球眼、積極的な打撃。海星の勝利は、これらをからめてのものだった。
 1-1の3回、2四球で無死一、二塁とし、打者の林が三振の時に重盗を決め、市野が左前へ2点適時打。これで活気づき、藤田のバントヒットや野崎の左前安打で追い打ちをかけた。市野、平野はともに内角の直球を好打したが、腰の回転が鋭かったために球足が速かった。
 5回にも鮮やかな攻めをみせた。野崎、石田、乾、北野、奥田が森岡、塩崎両投手に5連安打を浴びせる中堅返しの打法。これで7点差とし、左腕の北野が持ち前の鋭いカーブと重い直球でかわした。
 その北野に和歌山工は、力負けしたようだ。4回、貞包、山下の連安打などで一死満塁としたが、あとが続かず二者三振。遠回りのスイングだったためカーブについていけなかった。
 先発の左腕、森岡が制球を崩したのも大きな敗因。コースを狙いすぎたようで、伸びのある直球とカーブを生かせなかった。本人にすれば、悔やまれて仕方のない投球だろう。