第11回<昭和9年>選抜中等学校野球大会

 この年、薄田泣董氏作詩による大会歌 “陽は舞い上がる”が発表されたが、センバツの象徴として荘重な中にも明るさを打ち出しファンに親しまれた。また、センバツ出場校の栄誉をたたえる意味で代表校に選抜旗が贈られることになった。

<2回戦> 海南中 2-1 日新商
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
海南中 1 0 0 0 0 1 0 0 0 2
日新商 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1
<2回戦> 和歌山中 2-0 膳所中
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
和歌山中 0 0 1 0 0 0 0 1 0 2
膳所中 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
<3回戦> 和歌山中 1-10 享栄商
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
和歌山中 0 0 0 0 0 0 0 1 0 1
享栄商 0 1 2 0 3 0 0 4 × 10

 先攻の和歌山中は1回近藤投手の肩の定まらないのに乗じ山西三匍後、西尾四球、快足を利して二盗、宇野四球、木本中飛後、稲田右翼線安打したが西浦の絶好の返球に西尾本塁寸前にアウト。これに対して享栄は、2回和歌山中内野陣の欠陥三塁手の2失策によって1点を先取した。更に3回にも2走者を置いて安藤の遊撃頭上を抜く適時安打で2者を迎え3点をリード試合を順調に進めた。
 和歌山中は近藤の老巧味ある投球に打棒封じられ得点機なく、一方享栄は5回に入って猛打を振い、和歌山中は和田投手を退け稲田を送って防戦につとめたが、内野失が加わって更に追加点を与え大勢を決した。和歌山中8回二死後、四球の西尾を木本左越二塁打して迎え入れ1点を返したのみで大敗した。

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13
海南中 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 3 4
小倉工 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 1

 試合は後半に入って海南1点を先取すれば、小倉直ちに1点を応酬してここに1点を峠に火花を散らして激しく相挑んだ。13回表に入って小倉は海南の亀井を四球に出し長谷川にもドラック・バントに守備の崩れを招き阿瀬の中前安打に決勝得点の端を発して合計3点を与え小倉工・玉井の好投も効なく4-1で敗退することとなった。海南は2、3、6回に小倉は1、4、5回の各回に無死一塁に走者を出すの好機を迎えながら正攻法に出たのも僅かに1つ、他は徒らに強打法に出てすべて凡死去った。殊に試合が1点を勝ち越すことによって勝敗を容易に決することのできるのを考える時、この強打法は中等野球戦術としては余りに大胆不敵というべきか、自らを知るざるも甚しき拙策というべきであろう。

<準決勝> 海南中 2-5 東邦商
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
海南中 0 0 0 0 2 0 0 0 0 2
東邦商 0 2 1 2 0 0 0 0 × 5

 前日小倉と13回の補回戦を完投した長谷川の肩に矢張り疲労の後が歴然と見て当初から直球に威力なく、カーブを連投し苦しみながらバックスの好守に救われて小康の1回を終わった。2回東邦のトップ渡辺遊撃に痛打し熊谷、安井は連統四球に浴すや、二死したもののラストの立谷に中堅左を破られ2点を先行され、更に3回熊谷に中前テキサスでむざむざ1点を得られる等、海南守備は意気消沈の形、一方攻撃は東邦の立石の制球力に制せられてよい当りを示したが野手の正面を衝き不運な攻撃振りが続いたが5回、立谷投手自ら乱調な投球をなし、海南労せず2点を返し5-2その差3点と迫った。
 8回海南・近藤二塁の左を破り捕手の弱肩を見越して二盗して、自らチャンスを摑まんとする唯一の手段に出たが打者が慢然とボックスで近藤の動作を眺めているようなことではチャンスを我物にすることが不可能であった。海南の敗因を強いて求むるなれば攻撃戦法に確固たる定見がなかったことに発しているのではあるまいか、大会を通じて見れば、海南は一流チームに伍して豪も技量に見劣るところもなく走者の判断の鋭敏さがこれに加われば、来る可き時に海南の名声を馳せることもできるであろう。