第40回<昭和43年>選抜高等学校野球大会

<1回戦> 星林 7-8 清水商
  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
星林 4 0 1 0 1 0 1 0 0 0 0 0 7
清水商 2 0 0 0 0 3 1 0 1 0 0 1 8

 星林は対清水商の試合で12盗塁(9回まで)の大会新記録を作った。いままでの記録は30回大会(33年)中京商(対兵庫工)35回大会(38年)北海高(対早稲田)がそれぞれ記録した10盗塁。
 延長12回の末に清水商がサヨナラ勝ちしたが、試合は立ち上がりから意外と乱れた。星林は不調な清水商の古沢を攻め、1回安打と四球で出た2走者を置いて、東出が切れの悪い古沢のカーブを右翼線に三塁打して早々とノックアウトした。清水商は市川を援護させて防戦したが、二死後山本捕手は東出の本塁のとき打撃妨害をやって負傷退場した。星林はこのあと山本の適時打で加点し、この回4点を先取した。
 その裏清水商も、四球の望月(伸)が二盗したあと、三塁手の一塁悪投と古沢の長打で2点を返して追いすがった。
 星林は清水商バッテリーが走者に無防備なのをみて出塁するとニ、三盗し好機を作ると3、5回にはそれを追加点に結びつけた。星林は寺下投手が丁寧に投げて、内外角をうまくつき、清水打線を押さえていたので、前半の4点差は星林を大きく有利にした。しかし6回の清水商は寺下の球が高めに浮くところを見逃さず、古沢の長打を生かして3点を返し、得意のねばりで9回裏に四球と2安打で無死満塁として同点に追いついた。
 延長12回、清水商は左前安打で市川が無死の走者となる2つのバントで送り、望月(伸)が三塁に決勝の内野安打してサヨナラ勝ちとなった。星林には2回の好機をバント失敗でのがしたのが痛かったが、守備の荒さが追い込まれる一因となっていた。

<1回戦> 苫小牧東 2-5 箕島
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
苫小牧東 1 0 0 0 0 1 0 0 0 2
箕島 3 0 0 1 0 1 0 0 × 5

 2試合連続無安打、無得点試合の投手 — スタンドの目をマウンド上で一身に受けた箕島東尾。堅くなったのだろう。立ち上がりは右肩に力が入りすぎてボールが低目に決まらない。そこへ苫小牧の脚力を生かした攻勢が加わったから、東尾はますます力んでしまった。
 四球の漆沢に盗塁を許して一死をとり、しかも畑山を2-0と追い込みながらも、勝負を急いで左翼線に二塁打された。はやばやと1点を許した東尾は制球がなく、自分のピッチングを忘れていた。しかし、不安定な投球を続ける東尾を助けたのは、パンチ力を誇る箕島の強力打線だった。
 箕島打線は実に力強い。1回鳥羽が三遊間を破って二死三塁のあと上田、東尾、木村が連続長短打を放ってまたたくまに逆転、外角へのカーブをうまく巻き込んだ東尾の左中間安打をはさみ上田、木村の力のパッチングを見せつけた。さらに4回、東尾が左翼へ大会第3号本塁打。6回には木村の二塁打を足場に加点するなど初出場などと思えないほどのびのびとした攻撃力だった。
 苫小牧東はチャンスをつかむと果敢な走塁などで東尾を苦しめたが、あと一歩の打力がたりなかった。雪に閉されて打撃練習が十分にできない不利が現れており、ナイトゲームに入った6回二死から山口、木村の連安打で1点を返すのが精いっぱいのようだった。しかし2回の守りで、三遊間の深い当たりをさばいた漆沢三塁手のプレーなど、守備と走塁はよく鍛えられており、存分に力を出しきり、最後までくい下がった健闘は見事だった。

<2回戦> 箕島 2-1 高知商
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
箕島 0 0 0 1 0 1 0 0 0 2
高知商 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1

 強打を看板とする高知商が右腕で今大会屈指の箕島・東尾をどう攻めるか。これがこの試合の焦点であった。結果は東尾の剛腕に軍配が上がった。1.77m、74kgでがっちりした体格の東尾は上段から快速球と切れよく落ちるカーブで高知商の打力で力を押え込んだ。
 守りを東尾の右腕に託する一方箕島は立ち上がりから高知商の内野守備の乱れに乗じて押した。1回は一死二塁、2回は一、三塁と高知商先発の中川を脅かした。しかし2回はスクイズを冷静な中川に見破られて東尾が三本間にはさまれて先制機を逃した。
 高知商の中川は押されながらも、内、外角へのうまい配球で箕島のホコ先をかわし、序盤は技で力の東尾によく対抗した。押しながらも得点の門を開くことができなかった箕島は、中盤に入った4回先制点をものにした。無死遊撃右を破って出た大田を上田がバントで送ったあと、打力でも定評のある東尾が打席に入った。一塁へ歩かせるかとも思える場面であったが、強気の中川は勝負に出た。2-1と追い込んだ所では、中川の勝とみえた。ところが5球目、キメ球のカーブが真ん中へ入った。東尾は見逃さなかった。強くはじかれた打球は中前へ抜けた。大田がまんまと本塁をかけぬけた。
 勢いずいた箕島は6回にも加点した。無死三塁打した鳥羽をおいて、一死から大田がスクイズ・バントを決めて迎え入れた。
 3回まで東尾に快音を封じられていた高知商は4回、先頭の井内が右前へ初安打して小原のバントで二進したものの、期待の田村、北岡に一発が出ず6回の一死二塁の得点機にも井内、小原が凡退してしまった。小原の当たりは箕島・鳥羽遊撃手の好守にはばまされた。さらに8回、高知商は絶好の反撃機を作り出した。無死代打の日浦が遊撃に内野安打(代走田中)してすかさず二盗したあと浦岡の二ゴロで三進した。一死三塁の高知商は色めき立った。しかしこのピンチにも東尾はくずれをみせなかった。強打に出た高知商は楠瀬が投ゴロ、井内の遊撃ゴロはまたも鳥羽の軽快な守備にさばかれてしまった。
 結論になるが、楠瀬のときスクイズの手はなかったろうかと惜しまれる所だ。というのはどたん場の9回、四球、盗塁、けん制悪投などで三進した小原を一死から北岡が中犠飛して1点を返したからだ。8回の好機にスクイズで点差をつめていたならば、試合はどう展開していたかわからない。
 それにしても、東尾を投打の軸に、主将の上田、遊撃手の鳥羽が再三にわたって見せた好プレーは高知商をしのいでいた。最後まで東尾を苦しめ抜いた高知商のねばりはみごとなものであった。

<3回戦> 広陵 3-7 箕島
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
広陵 0 0 0 1 1 0 0 0 1 3
箕島 2 2 0 1 0 2 0 0 × 7

 広陵の宇根、箕島の東尾 — タイプこそ違うが、本大会では指折りの好投手、それだけに、どのような攻めをみせるかがみものだった。ところが箕島は宇根を恐れず、初回から積極的に打って出る作戦が図にあたり快勝した。
 1回、鳥羽が左翼に痛打を放ったあと、大田の遊撃ゴロは野手が併殺をあせってファンブル、無死一、二塁と箕島は絶好の先制機を迎えた。3番上田は初球を手堅くバントして走者二、三塁。宇根は東尾を歩かせて満塁策をとったが、木村は宇根が自信を持って投げ込んだ初球を強打すると投手強襲安打となって鳥羽生還、野際はスクイズを決めて2点をもぎとった。
 この先制点に自信をつけた箕島は、2回に二死後から鳥羽安打、大田が敵失に生きて一、二塁この好機に箕島は上田が中前へ、東尾も三遊間を破ってまた2点をあげた。箕島の打者はバットがよく振れており、宇根のペースにまき込まれず、思い切って好球をねらったのが成功したといえる。
 広陵も立ちあがり二死後から橘が四球、品川の1球目に二盗する先制機があったが、品川は三振で好機をつぶした。4点のリードに守られた東尾は高めの球をツリダマに、そして慎重に内、外角低めに速球をきめ、3回まで広陵打者の打球は外野に飛ばなかった。
 試合巧者の広陵は4回、2つの内野安打と深津の安打でつかんだ好機に福田が適時打して1点。5回には四球に出た砂川を三塁において品川が三塁打を放つなど巧みなバッティングを見せじりじり追い上げた。
 しかし箕島は6回、大田・上田の安打で無死一、二塁のとき投手の牽制球悪投と野手の後逸とダブルエラーに恵まれたあと、東尾が中堅深く三塁打して決定的な得点をあげた。好投手宇根から12本の長短打を放ち7点を奪った箕島の攻撃は見事なものであり、経験豊富な宇根も日ごろの球威がなかったとはいえ、まったく顔色がなかった。広陵も善戦したものの予想外の大差となったのは、投手をもり立てなければならない野手が再三凡失を演じて宇根の足をひっぱったのが原因。

<準決勝> 大宮工 5-3 箕島
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
大宮工 0 0 0 2 0 0 1 2 0 5
箕島 2 1 0 0 0 0 0 0 0 3

 開幕第1戦で4点の劣勢をはね返した大宮工は、ここへきて、またもあざやかな逆転劇を演じた。3-3で迎えた8回、大宮工は先頭の石井が死球を受けて出塁、一死後、盗塁を敢行すると捕逸が重なって一気に三進、期待の吉沢は投手ゴロに終ったが布施が三遊間を破って逆転、なお二盗ののち高山がこの日2本目の右前殊勲打で、追打ちをかけて決勝進出を果たした。
 前夜、大事をとって入院し、病院から球場に直行した大宮工・吉沢選手が、気力でマウンドに上がったのに、初回から不運な失点が続いた。
 立ち上がり箕島は鳥羽に平凡な二ゴロを打ったが、二塁手がもたついて出塁、大田の右前安打のとき、右翼手が二塁へ悪送球して、走者はたちまち二、三塁を占めた。吉沢は1死をとったものの、強打・東尾を迎えて敬遠せざるをえなかった。一死満塁、吉沢が1-0から自信満々、外角低めすれすれに投げたカーブを、5番木村はもののみごとに右翼線へはね返した。鳥羽と大田はおどりあがってホームイン。箕島にとって、ころがりこんだ好機とはいえ、木村の一打は見逃しても仕方のないコース。よく打ったものだ。箕島は2回にも敵失で1点を加えた。二死後、前野、鳥羽が、それぞれ安打しては二盗をはたし二、三塁、大田の遊撃ゴロを、大宮工の遊撃手が一塁へ悪投して、前野が本塁を踏んだ。箕島の剛腕・東尾投手は、しゅっぱな高めが多く、石井を歩かせたが、これを併殺で切抜けると、幸先よいリードに気をよくして序盤戦は無難に投げた。だが大宮工も、打者一巡した4回、無死石井が再び歩いたのを皮切りに、やや堅くなった東尾に襲いかかった。井出が右翼線に長打(初安打)して二、三塁から、吉沢は敬遠気味の四球で満塁、ここですでに2本の本塁打を放っている布施が、肩に力が入りすぎて三振に倒れたものの高山の一打が一塁手の直前で不規則バウンドして右翼に転がり、大宮工は2点を返した。
 さらに7回には、無死敵失と四球の走者を、バントで二、三塁に進め、新井の二塁ゴロで高山を還すという無安打の1点で追いついた。吉沢は球威不足で、7回まで箕島に毎回安打されていたが、十分に"間"をとり巧みなコンビネーションで投げ、ときにはバックにも指示を与える冷静さで、打たせてとるピッチングに終始した。このため3回以降、大宮工バックが落ち着きを取り戻してからは、箕島は塁上をにぎわすだけで得点にいたらず東尾も受太刀に回った。
 箕島ベンチにも、安打は打てるのに、もう一歩押しこめないいらだちが感じられ、これが東尾の投球にも反映して、8回は真ん中よりに球が集まってしまった。最終回、箕島は鳥羽の3本目の安打と四球で二死、三塁、打者東尾が大歓声に迎えられてボックスに立つ一打同点の大場面が訪れたが、凡ゴロに終って万事休した。
 体調不十分、しかも前半の手痛い失点にもめげず、ペースを乱さなかった大宮工・吉沢投手の精神力はあっぱれであり、じりじりともり返して行った打線も、よく吉沢の力投にこたえた。