第39回<昭和42年>選抜高等学校野球大会

<2回戦> 三重 0-5 市和商
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
三重 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
市和商 0 0 0 0 0 2 3 0 × 5

 市和商、野上投手がノーヒット・ノーランの快投をやってのけた。
 1回いきなり三重の二人を連続三振に退けたとき、早くもその球威をうかがわせた。
 左腕特有の速球が打者のふところでぐっと伸びていた。しかし2回先頭の稲葉にファウルで粘られ、13球を投げて四球。3回にも内野陣の失策ながら走者を二塁まで許した。
 それが後半をむかえ、回が進むにつれて球威が増し、ノーヒット・ノーランへの期待が強くなる深みある投球に変わっていったのだから大したものだ。落ち着いた投球態度がその偉業をささえていたといえよう。
 市和商はこの野上の快投に守られながら、6回井田が均衡を破る2ランを左翼へ打ち込んだ。右足首を負傷しての出場だったが、恵まれた上半身をぐっとひねった豪快な本塁打。気力の一撃というべきで、主将としての責任感が生んだのだろう。
 三重の前川投手はマネージャーとして甲子園へ乗り込む予定であったが、それがエース中川がフォームを崩したため大会直前、選手に登録を切り替え晴れのマウンドに登った。中学時代こそ投手の経験があったものの、甲子園で投げようとは前川自身も思わなかったことだろう。ところがそんな不安をよそに5回まで無失点。カーブと直球をいかにも慎重に投げ分ける投球ぶりが、高校生らしく気持ちがよかった。しかし急造投手の悲しさ、走者を出し、セットポジションからの投球が投げにくそうだった。井田に痛打を浴びたときも、野上に3本目の安打を許し一塁に走者がいた。カウント1-3と苦境に追い込まれ、うっかり投げた絶好球だった。練習していない前川にそれ以上を望むのは酷というものだ。それよりも右足をかばいながら本塁打した井田の好打をたたえるべきである。
 市和商は7回にも2走者を迎え入れる寺井の三塁打とスクイズで3点を加え試合を決めるとともに、野上の投打にわたる活躍に花をそえた。

<3回戦> 市和商 0-1 甲府商
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
市和商 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
甲府商 0 1 0 0 0 0 0 0 × 1

 守りの要素が勝ったチーム同士の対戦らしく地味な試合であった。
 市和商は三重を無安打、無得点に封じた左腕野上、甲府商は近大付属を1安打に押さえ込んだ実績をかって、左の下手投げ望月をふたたび起用した。どちらもさほど球威はないが、投球が丁寧という共通した美点をもっている。しかしこの日の市和商野上は、身上のコントロールがあまく、受け身に回る原因になった。
 2回裏二死から新津、祢津が歩く幸運にめぐまれた甲府は、つづく望月の三塁右を襲う打球を野手がはじく間に、新津がかえって1点を先取した。わずか1点だがチーム力が接近しているだけに、市和商の焦りを誘う効果があった。1、3回の好機を逃した市和商は、右翼に打ち返す打法を忘れ、左右高低にボールを散らす甲府商、望月のじらし投法のペースにひきこまれた。
 一方の甲府商は、好打順を迎えた6回寺本、遠藤の長短打と古屋敬遠の四球で一死満塁の追加得点機をつかんだ。しかし、優位に立ちながら慎重すぎてスクイズを選んだのが結果的にまずく西海の初球スクイズは三飛となって三塁走者とも併殺という最悪のケースに終わった。だが幸いなことに防ぎ役、望月投手の軽妙な打法は、回を追っても乱れず、いかにも甲府商らしいしぶい運びでゴールにとびこんだ。
 市和商は得点源の野上、井田が完全に押えこまれたのがいたく、この2人が打たないと打線全体がしめる弱点をさらけ出して、せり負けた。