第18回<昭和7年>全国中等学校野球選手権大会

紀和大会

文部省野球統制令が出され二次予選を行ない地方代表を決めることとなった。

<準決勝> 和歌山商 1-4 和歌山中
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
和歌山商 0 0 0 0 0 1 0 0 0 1
和歌山中 2 0 0 2 0 0 0 0 × 4

 和歌山中は稲垣投手の肩定まらないのに乗じ花々しく打ち、先ず1回、喜多島左中間安打し後藤の左中間三塁打に生還、捕逸に後藤も還えり、更に4回一死後、太田右前に快打し喜多島四球に続き後藤再び右翼越しに三塁打し2点を加え後半大きくリードした。
 一方和歌山商は前半不振凡退を繰り返したが、6回に至り漸く一死後、雑賀遊撃を破り山本に送られ赤井の二匍失に生還1点を返し、稲垣投手もこれに調子づき6回以後、和歌山中を無安打に封じたが、及ばず4-1で和歌山中昨夏の復讐を遂げた。

<準決勝> 海草中 25-4 耐久中
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
海草中 1 4 1 2 1 0 6 8 2 25
耐久中 4 0 0 0 0 0 0 0 0 4

 大会直前に好調を伝えられた耐久・田上投手は豪球を以ってきこえ本年度の大活躍を期待されたが、初回より乱調で大きく崩れ2回早くもプレートを退く始末で意気消沈し惨敗を喫したのは意外であった。

<決勝> 和歌山中 7-0 海草中
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
和歌山中 1 0 1 0 0 2 0 0 3 7
海草中 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

 和歌山中第一打者喜多島、左翼線に三塁打し太田四球後、巧みな牽制球に喜多島刺されたが、太谷三匍失、重盗を企て捕手落球に1点先取、更に3回一死後、太田・後藤・大谷3安打を放ち1点を加え優勢。
 海草中は1・3回に好機あったが野手の好守備に阻まれて、無得点、6回和歌山中・吉田の右中間二塁打と喜多島右中間を抜く三塁打を浴びせて2点追加し、9回にも猛打を振い太田・後藤の単打、大谷左越三塁打などで駄目押しの3点を入れ全く一方的に和歌山中大勝した。
 海草は6回裏、無死2走者を出したが、毘舎利三振、松下右飛で入らずシャットアウトを喫した。

<紀和決勝> 郡山中 3-5 和歌山中
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
郡山中 0 1 0 1 0 0 1 0 0 3
和歌山中 0 0 2 0 1 2 0 0 × 5

 立ち上がり郡山中物凄く当たり2回3安打で1点先取、和歌山中は郡山・中田第2投手のフラフラした緩球に悩みながらも3回二死後、2走者を置いて後藤左前安打、後逸に2点を入れれば、郡山中は4回、2四球と星野の適時安打で1点追加し同点、シーソーゲームとなる。しかし5回和歌山中・大谷の適時安打で1点、6回にも一死二、三塁の好機に宇野右前に好打して2走者を迎え郡山中、最終回の一打同点といった息詰まる反撃を退けて和歌山中に凱歌揚がる。

全国大会

<1回戦> 和歌山中 1-0 小倉工
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
和歌山中 0 0 0 0 1 0 0 0 0 1
小倉工 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

 大谷の欣然たる投球は小倉工の力攻を巧みにそらし貴重な1点を守って動かず、7回小倉中・西村の安打が好機到来を思わせ強打者、新富に送らせる大事をとったが、大谷のドロップに切り抜けられてから小倉工の陣営は淋しく敗戦の色を濃くした。和歌山中の1点は宇野・木村の武勲を語るもので必ずしも酒井の失投というべきではなく、6安打を与えた酒井はその分を尽くしたといえよう。只和歌山中は僅かに打力に優り、勝敗を決したものの大谷の健闘も見逃せない。大谷は速球、曲球ともに制球よろしきを得、殊にそのドロップ・カーブの奏功に至っては、このゲームを大谷のドロップ勝ちと言うも過言ではなく、小倉打者の総ては奔殺(ロウサツ)の憂目をみた。

<2回戦> 和歌山中 0-1 早稲田実
  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11
和歌山中 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
早稲田実 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1

 立ち上がり両軍投手好調、試合は投手戦の形をみせ互いにチャンスを作りそれを又言い合わせた様に切り抜け凄じい熱戦を展開した。前半早稲田実は、ややよく後半は安永の四球に和歌山中走者を出したが適時安打が出ず延長戦に入った。両軍投手の出来栄えからこの試合はいつ果つ可しとも見えなかったが、11回早稲田実・南方に中堅前へ安打されたが、運の尽きで深田に送られ南方は田川の投匍に三塁に刺され和歌山中一息ついたとき、大谷は気を許したか早稲田実の重砲星野・清水に何れも初球を快打され左翼手ファンブルする間に決勝の1点を挙げさしもの激戦も幕を閉じた。早稲田実がこの回、3安打集中したのは何れも初球を狙ったもので、それまで第1球直球を見逃していたのがこの回に限り敢然打って出たのが成功したものであった。大谷は最後に打たれたが10回に至るまではむしろ安永を凌駕する好投振りを示していた。又和歌山中の内野守備は見事なもので一流といってよかろう。安永は重味ある球勢を生かしアウドロを適宜にまじえて和歌山中打者を巧く料理し3安打に封じた。