第59回<昭和52年>全国高等学校野球選手権大会

県予選

<準決勝> 向陽 0-4 箕島
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
向陽 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
箕島 0 0 0 2 0 1 1 0 × 4

 自信たっぷりの箕島に、捨て身の向陽。向陽の一年生投手樋口が連投にめげず、序盤は箕島・東と互角に投げ合い準決勝らしい好試合になったが、箕島はじりじり得点を重ねて勝った。
 1回無死二塁の好機に強攻策でつぶした箕島は4回、赤尾の中前打と栗山の二塁打でニ、三塁、続く西川の死球で満塁とし、上川は右飛に倒れたが、石井雅が右前にはじき返し、二走者を迎え入れた。『右へねらえ』というベンチの指示にこたえた一打だった。6回にも石井雅の適時打で1点、7回は赤尾のスクイズでダメ押しの1点を加え、東の力投で向陽を寄せつけなかった。
 向陽は5、6回に安打の走者を送りバントで二塁へ進めたが、いずれも後が続かなかった。東の投球に的がしぼれず、散発の三安打で打力の差で敗れた。しかし、絶妙な制球力とマウンド度胸のよさで好投した樋口を、バックが再三の攻守でもり立てて健闘、試合前の選手の言葉通り、見事に燃え尽きた。

<準決勝> 田辺 2-1 市和商
  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15
田辺 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 1 2
市和商 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 1

 市和商が8回に1点を取れば、田辺は9回に同点に追いつくという激戦。延長にもつれ込んだ15回、田辺が勝利をもぎとった。
 再三の勝ち越し機を強攻策の失敗で逸した田辺は15回一死後、西岡洋が左翼線に二塁打、若田の四球と敵失で満塁としたあと尾崎が投前にスクイズを決め、待望の勝ち越し点をあげた。
 市和商は8回、橋本が四球を選び、送りバントと二ゴロで三進、ここで中鋪が中前に適時打を放ち、1点リードした。橋本の調子から逃げ切ると思われたが、田辺は9回一死後、木下の四球と落合の中前打で一、二塁。西岡洋は右飛に倒れたが、若田の遊ゴロを遊撃手が一塁に悪投する間に同点にした。市和商にとっては、15回の1点といい、大事なところで出た失策が命取りになった。

<決勝> 田辺 2-0 箕島

 がっぷり四つに組んだ激闘だった。春夏の連覇をめざす箕島と、無欲でぶつかった田辺。その精神的な違いが試合に現れ、終始押し気味だった田辺に勝利の女神がほほえんだ。
 延長10回、それは42イニング無失点を続けてきた東にとって魔の回となった。田辺は先頭の尾崎が右中間を破る二塁打、続く山根はスリーバントを決め尾崎は三塁へ。大橋への3球目。
 スクイズを警戒してはずした球は、跳び上がった赤尾捕手のミットをかすめてネットにぶつかった。躍り上がって本塁を踏む尾崎。大橋も気落ちした東から左中間二塁打を放ち、ついに東が降板。二死後、代わった石井毅から木下が中前にはじき返し、一気に試合を決めた。『小細工よりも長打力で』という田辺・岩本監督の思惑通りの攻撃ぶりだった。
 守っても田辺は主戦木下が、当たりまくっている箕島打線を完封した。伸びのある速球と打者のタイミングを狂わす変化球を織りまぜ、文句のないピッチング。前日の準決勝で15回投げ抜いた疲れも見せず、10回二死満塁のピンチも懸命の力投で切り抜けた。
 箕島はいつものそつのない野球が影をひそめた。2回、中前打で出塁した栗山が投手のけん制に刺され、4、8回にも走者を出したが、いずれも送りバントを失敗するなど、選手に硬さがみられた。10回一死後、栗山の右前打などで二死満塁と最後まで田辺を脅かしたのはさすがだったが、代打内山は二ゴロに倒れ力尽きた。

<紀和決勝> 田辺 1-4 智弁
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
田辺 1 0 0 0 0 0 0 0 0 1
智辯 0 0 0 2 2 0 0 0 × 4

 早ばやと訪れたチャンスに、三塁側スタンドはわき立った。1回戦から見せていた『切り込み隊長』の尾崎が智弁学園・山口投手の初球をハッシととらえた。打球は右中間を破る二塁打。試合前、『山口の速球はこうやって打つんだ』と、バットをおっつける格好をナインに示した尾崎。その自信が、快打を生み出した。山根の投ゴロで三進。続く大橋は三球目のスクイズを投前にころがした。和歌山大会で見られなかった絶妙のバント。好スタートを切った尾崎が投手の送球よりも一瞬早く本塁へすべり込んだ。見事な先制攻撃に応援席は総立ち。『田辺が大将』のプラカードが激しく揺れる。その裏、一死三塁のピンチは走者のミスで切り抜けた。『球運も田辺に味方している。これならいけるぞ。』2回には二者連続三振に切って取った木下の力投に期待感は一層高まった。
 前夜10時に消灯、朝8時までぐっすり寝た田辺の選手たちは試合前から岩本監督がびっくりするほどのリラックスムード。押せ押せの試合運びに、ベンチも活気がみなぎる。4回には西村、木下が連続安打。鋭い振りにさすがの山口投手も顔色がない。山口攻略はあと一歩だった。
 4回、木下のスッポ抜けたカーブが打者に当たる。二盗を刺そうとした西村の送球は、中堅に抜けた。そして前田への一球目は真ん中高め。打球は右中間を破り、中継した二塁手山根の悪送球で一挙に前田も本塁を踏んだ。痛恨の一球。思わぬところで出た失策。つきは逆に智弁学園へ傾いていった。『調子はふつうだったが、制球が甘かった』と木下投手。中学時代県下一の捕手とうたわれたが、遠投100mという強肩を見込まれて、2年生の春から投手に転向。学校まで3kmの道のりをランニングと自転車で交互に通学し、足腰を鍛えた。タイヤを腰にぶら下げて走り、お寺の石段をウサギ跳びしたことも。『でも、つらくはなかった。田辺高で野球がやれたんだから』敗れたとはいえ、屈指の好投手山口と堂々投げ合った健闘は立派だった。『大学に行っても野球を続けたい。日米大学野球で投げるのが夢です。』『弁慶さん』の木下はこういって球場を去っていった。