第60回<昭和53年>全国高等学校選手権大会

県予選

<準決勝> 串本 2-4 箕島
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
串本 0 0 0 0 0 0 0 2 0 2
箕島 0 0 0 0 1 2 1 0 × 4

 闘志をむき出しにして投げる動の岡本。つねに淡々とした表情で打者に対する静の上野。対照的な2人の緊迫した投げ合いは、岡本から崩れた。それも四球による自滅だった。
 箕島は5回、制球に苦しむ岡本から2四球と上野山の安打で一死満塁と攻めた。二死後、北野も待球作戦に出て、2ー3から押し出しの四球を選び、均衡を破った。
 箕島は5回までに107球を投げ疲れの見え始めた岡本を6回に再び襲い、二死一、三塁から上野山が左中間に二塁打して2点。7回には北野が右翼席にだめ押しの本塁打を放ち、勝利を固めた。
 2回戦で10安打、準々決勝で14安打と波に乗る串本打線も、上野の外角低めをつく投球に手こずる。何度も好機をつぶした。ようやく8回、一死二塁から久保の適時打で1点を返し、久保も二盗後、瀬上の一塁ゴロで一挙に生還。必死に追いあげたが、上野を救援した石井毅にかわされ決勝進出はならなかった。

<準決勝> 伊都 2-6 吉備
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
伊都 1 1 0 0 0 0 0 0 0 2
吉備 1 0 3 1 0 1 0 0 × 6

 1回戦から5点以上たたき出してきた吉備打線は、決勝進出をかけたこの試合でも健在だった。伊都の繰り出す三投手に14長短打を浴びせて6点をあげ、藤村も助けた。
 1点を先行された1回、吉備は谷野の二塁打と岡本の左前安打ですぐに追いついた。再び1点を追う3回、安打で出た藤村を一死から犠打で進め、谷野の二塁打を呼んだ。続く岡本は一球目を左翼席に2点本塁打。この試合で始めてリードを奪った。勢いに乗った吉備は4回に藤村の適時打、6回には二死一、三塁から伊都のお株を奪う重盗を決めて加点し、優位に立った。立ち上がり危ない投球をしていた藤村は3回以後、一安打1四球に抑え、つけ入らせなかった。伊都は、足を使った戦法でスタートからズバリ的中した。1回、四球に出た西が二盗、犠打で三進後、久保博の中犠飛で生還、無安打で1点を取った。2回にも坂本が左前安打して二盗、久保文の適時打でかえった。が、3回以後は2人の走者を出しただけで機動力を発揮することができなかった。

<決勝> 吉備 0-5 箕島
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
吉備 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
箕島 0 0 0 0 0 0 5 0 × 5

 箕島との対戦成績は、新チーム結成以来の0勝3敗と勝ち星なし。吉備の林監督は、決勝戦前夜のミーティングで『打倒箕島』に燃える選手の緊張をほぐすために、こういった。『あしたはおそらく負けるやろ。大事なのは、あとの態度だ。勝とうと思うより、向こうがこけるのを待とう」皮肉にも先に『こけた』のは吉備だった。それも、わずか30cmの手元の狂いが、明と暗を分けてしまった。
 7回、箕島は先頭の北野が一、二塁間を抜いて好機の芽をつくった。次打者は西川。春までは『猛打箕島』の不動の四番打者だった。が、今大会は12打数2安打6三振とスランプ。当然、送りバントが予想された。林監督も、藤村ー井口のバッテリーも同じ思いだった。『バントをするならやってみろ』藤村は、そんな気持ちで投げた。
 初級。西川の胸元をつくシュートだ。西川のバットが横になった。球は藤村と井口の中間に転がる。井口の指示は、『二塁へ』。完全に間に会うタイミングだった。朝の練習でも、何度も同じようなケースを想定し、藤村は難なく二塁で刺した。だから、この紀三井寺球場でも『刺せる』との確信があった。
 藤村はダッシュしてつかんだ。矢のような球を、ベースカバーに入って橋本へ球は無情にも右へそれた。橋本は『入ってくれ』と祈るような気持ちでグラブを伸ばして捕った。が、右足がわずかに離れた。一死一塁となるはずだったが、無死一、二塁に。浮足だった吉備。攻撃の箕島、もうあとは勢いの違い。
 この日で四連等。『別に疲れは感じない』と試合前に話していた藤村の球は上ずり始め、スピードがなくなっていた。そのことを井口も感じていた。大試合の経験を充分に積んでいる箕島が、これを見逃すはずはない。森川が、動揺した藤村の前に再度転がして内野安打。無視満塁。石井毅にストレートの四球で押し出し。こうなると、吉備に箕島の勢いを食い止める力はなかった。練習の力をいかに本番に出すか。この試合は、その差が出た。
 戦いは終わった。吉備の選手は、ベンチ前で箕島の校歌を聞いた。後ろに林監督、水野部長もいた。校歌が終わったとき、林監督は選手のに『こっちを向け』といった。振り返った嶋田・谷野・岡本らに次々と握手を求めた。一番最初に涙を流したのは、林監督だった。選手も泣き出した。選手たちのたくましい手に支えられ、空に舞ったのは林監督の方が先だった。

全国大会

<1回戦> 熊代 0-1 箕島
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
熊代 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
箕島 1 0 0 0 0 0 0 0 × 1

 優勝候補に数えられている箕島が大会屈指の左腕投手である能代の高松をどう攻めるかが試合の焦点であった。
 1回、箕島の先頭打者、嶋田は初球直球ストライクを見逃したあと、真ん中に入ってくる二球目を鋭い振りで中越え三塁打した。自信を持って投げた球を打たれ、高松は動揺したのではないか。走者にも気をとられてボールが先行し、上野山を歩かせて無死一、三塁のピンチを招いた。
 箕島ベンチは高松から大量点は無理と判断したのだろう。3番石井雅に1ー2からスクイズを指令。石井雅が投手の右に鮮やかに決めて先取点をあげた。2回からわずか2人の走者しか出せなかったのだから、箕島の手堅い作戦は正しかった。
 能代も追いつくチャンスがあった。3回、制球を乱した石井毅に佐々木、梁瀬が連続四球。畠山も0ー2となった。だが、続く3球目に二塁走者佐々木が捕手のけん制球に刺され、好機をつぶした。6回にも一死後、近藤が左中間に二塁打したが、三塁をねらってオーバーランアウト。中軸打者につながるところだっただけにこの暴走は惜しまれる。
 力で押す高松と球を散らしてかわす石井毅の、テンポの速い投手戦だった。

<2回戦>
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
広島工 0 0 0 0 0 0 1 0 0 1
箕島 0 0 0 0 0 0 6 0 × 6

一挙に6点、箕島の猛打が7回に爆発した。1点を追ったこの回、箕島は先頭の浜野が遊撃の左の内野安打で出た。森下のバントは二塁手河名の好判断で二封されたが、森川が三遊間を抜く。この勢いが選手広島工のリズムを狂わせたのか、石井毅の投前バントは津田の三塁へ悪送球をさそって森下がかえった。1ー1。
 広島工は嶋田を歩かせて満塁策をとった。だが代打の西川が四球を選んで押し出しの勝ち越し点。さらに石井雅が三遊間へ。そして北野は右中間を痛烈に破る三塁打したとたたみかけて計6点を奪った。ひとたび波に乗るとすばらしい破壊力をみせる箕島打線。広島工の津田にやや疲れがみえ、変化球を多投するところをねらい打った感じである。
 広島工は鍛え込んだ守りに思わぬ破たんが生じた。津田の三塁送球は三塁手が捕れない球でなかったが、やはりあせっていたのだろう。それまでは6回の二死二塁で白井の左前安打を横洲、中村があざやかな中継プレー。本塁をついた北野を刺した機敏なプレーやバントシフトのうまさは格別だった。ひとつの失策から大差の試合となったが、6回までは攻守によくバランスがとれた広島工と箕島のしのぎあいは見ごたえがあった。

  1 2 3 4 5 6 7 8 9
中京 0 0 2 0 0 0 0 3 0 5
箕島 0 0 2 1 0 0 1 0 0 4

 速球を武器に力の投球でわたりあった中京・武藤と箕島・上野の両投手。そして本塁打の応酬とさすが強豪同志の対決は見ごたえがあった。
 先取点は中京。3回、安打の阪本を一塁に置いて、1番の山中が左スタンドに本塁打した。山中の本塁打は佐世保工戦に続く2試合連続のもので、リストのよく効いたすばらしい一打だった。
 箕島もすぐ反撃した。その裏、簡単にニ死となったが、石井雅が遊撃左に安打して出塁。このあと左打者の4番・北野がわずかに外角高めの球をうまくたたき左翼へ同点本塁打を放った。風が右から左へ流れていて、多少風に乗ったことも幸いしたが、左打者が左へ打ち込んだパワーは高校生ばなれしたものだった。
 箕島はこの北野の本塁打で勢いづき、4回にはまたも二死から森川、上野の連安打で一、二塁とし、嶋田の遊越え適時打で1点。7回にも中京守備陣の乱れから1点を加え、4ー2とリードした。
 しかし、さすがは夏の選手権出場18回を誇る中京である。8回、一気に逆転した。小川と代打黒木の安打で一死一、二塁に栗岡が1ー0後の二球目を左翼へ逆転の3点本塁打した。7回の守備の破たんによる失点がダメ押し点となっては、面目がない。栗岡の本塁打はこのまま引き下がれない、という闘志が生んだ貴重な一発ともいえる。
 投げる武藤は立ち直った。8、9回はいずれも三者凡退に封じた。