第65回<昭和58年>全国高等学校野球選手権大会

和歌山大会

<準決勝> 箕島 3-2 向陽
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
箕島 0 1 2 0 0 0 0 0 0 3
向陽 0 0 1 0 0 0 0 1 0 2

 向陽は終盤1点差に追い上げたが、箕島が序盤に挙げた3点を守り切り、辛勝した。
 箕島は2回、先頭の山下が中前打、続く硯も内野安打で出塁。川村がバントで手堅く送った後、角田が右犠飛で山下をかえし先制。3回も連打で出た吉井と千川を山本が確実に送り一死二、三塁、続く勘佐が投前へ絶妙のスクイズを決め吉井が本塁を踏み2点目。二塁走者千川も一気に本塁をうたがったが、三本間で挟殺。この間、勘佐は一塁に生き続く山下の豪快な右翼越え三塁打で生還。3点目をあげた。向陽は3回一死から家永が右越え二塁打、二死後、間宮・本脇が連打して1点を返した。8回無死からは間宮が中越え三塁打で出塁。一死後、長雄がスクイズを決めた。しかし、反撃はそこまで家永は4回以降、気力あふれる投球で箕島打線を抑えた。しかし、5回無死二塁、6回二死二、三塁の好機に適時打が出なかったのが痛かった。

<準決勝> 御坊商工 3-4 吉備
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
御坊商工 0 0 0 1 2 0 0 0 0 3
吉備 1 1 0 0 0 1 1 0 × 4

御坊商工は三原、吉備は木本が本塁打を放つなど見ごたえのある展開となったが先手を取った吉備が終盤、御坊商工・関投手の乱れに乗じて決勝点を挙げ逃げ切った。
 吉備は同点で迎えた7回、代わったばかりの関に襲いかかり一死後、弓場、岡本の連続四球で二死満塁。続く木本がうまく中前へはじき返して決勝点を挙げた。
 一回、弓場の中前打と木本の中前適時打などで先制した吉備は2回一死で、二塁走者、中村文が生還、1点を拾った。中盤、奥山が打ち込まれ苦戦したが、1点をリードされた6回、先頭の木本が球威の落ちた森下から、 右中間に大会17号の本塁打を放ち同点に追いついた。
 御坊商工は、1点差と迫った5回二死、左前打の浜口を一塁に置いて、三原が右翼席に大会第16号を放って逆転。吉備を上回る長短13安打を放ち、7回を除いて毎回塁上をにぎわしたが、好機に決定打が出ず涙をのんだ。

<決勝> 吉備 1-3 箕島
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
吉備 0 0 0 0 0 0 0 1 0 1
箕島 0 1 2 0 0 0 0 0 × 3

 箕島・吉井投手の137球目の球は快音を残して右前へ抜けた。『キャー。』三塁側の吉備応援席から悲鳴が上がる。しかし、箕島・山下右翼手からの送球が勘佐一塁手へ。塁審の右手が上がった。試合終了。けがで負傷、ベンチから声援を送っていた主将の田伏が躍り上がるように本塁前へ。名選手とがっちり握手を交わした。
 先手をとったのは箕島だった。2回、先頭の山下が捕邪飛に倒れた後、続く硯が打席に。対市和歌山商、智弁和歌山戦で本塁打を放っている。一球目ストライクの後の二球目。171センチ、79キロのがっしりとした体がびゅんと回った。打球は一直線で左翼席へ箕島のパワーが早くも爆発した。
 勢いづいた箕島は3回、先頭の吉井が左前打で出た。千川が手堅く送った後、山本は四球、勘佐が左前打を放って一死満塁の好機。山下が左打席に入る。『スクイズ』しかし、山下は外角への難しい球を左翼線へ巧打。三塁走者吉井に続いて、二塁走者山本も本塁を駆け抜けた。
 吉備も必死だ。一回、中前打で出塁した先頭打者出崎は、弓場の送りバントで二塁へ頭から突っ込んだ。『打倒箕島が私の野球人生のすべて』という林監督の闘志が選手に乗り移ったかのようだ。続く岡本の三塁ゴロは野選となり、一塁に生きた。しかし、箕島・吉井投手は落ち着いていた。中村に四球を与えて二死満塁のピンチになりながらも、ストライクを先行させて坂本を投飛に打ち取った。
 吉備・奥山投手も踏んばった。多投していたカーブが打たれ始めるとみるや、伸びのある速球と大きく曲がるカーブを投げ分け、4回から7回まで箕島打線を無安打に抑えた。8回、吉備打線は奥山の力投にこたえた。この回一死から出崎が見事な左翼越え二塁打。二死後、岡本は四球を選んだ。三塁側応援席から『ワッショイ』コールが続く。期待にこたえた木本の打球は中前へ。山崎が本塁を踏んだ。点差はあと2点目。9回、吉備は代打攻勢をかけた。一球ごとに箕島・吉井投手をにらんで、食い下がる吉備の打者、しかし、吉井の懸命の力投に追撃も及ばなかった。

全国大会

<1回戦> 吉田 3-4 箕島
  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13
吉田 0 0 1 0 1 0 0 0 0 0 0 0 1 3
箕島 0 0 0 0 0 0 1 0 1 0 0 0 2 4

 延長13回、相手の2失策につけ込み、角田の決勝打で逆転サヨナラ勝ちした箕島だが、この優勝好捕を最後まで苦しめ抜いた吉田の健闘がひときわ光った。
 その最大の原動力は、左腕・三浦の巧投である。球威不足を大きく割れるゆるいカーブで補い、箕島打線の打ち気をうまくかわした。だからこそ、6回まで安打1本。内野ゴロ10個封じることができた。7、9回、硯の連続打席本塁打で追いつかれはしたが、これは彼の打撃力をほめるべき。延長に入り、球は上ずって来たが、気力で投げた。その点、13個の守りで一死一塁から山下の犠牲バントを捕手が一塁へ悪送球、さらに硯敬遠のあと、遊ゴロの処理ミスが出たのは三浦にとって気の毒だった。
 吉田は、3回無死から三塁打の桑原を柴田が右前打でかえして先制。5回にも三浦の中前打をきっかけに2点目と下位打線が活躍。また、7回。1点差とされた場面で川村の右翼大飛球を山中が後ろ向きで好捕するなど、すがすがしい善戦だった。
 箕島は、受け身に回ったのが苦戦の原因。吉井の出来がいまひとつだったこともあるが、延長後、再び攻めが緩慢になるなど反省材料は多い。

<2回戦> 駒大岩見沢 3-5 箕島
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
駒大岩見沢 1 0 0 0 0 0 0 0 2 3
箕島 0 3 0 0 1 1 0 0 × 5

 箕島が強さと弱点の両面を見せた。
 強さを感じさせたのは、バントを多用しての得点経過。一回戦の吉田戦では、大味な攻めをして苦戦したが、この日は一転して手堅い攻めを見せた。1点を追う2回には硯の安打をきっかけにバントと安打で一死一、三塁とし、小林がスクイズを決めて同点。なお二、三塁と攻め、千川が高めの内角球を鋭い振りで中前へたたき返し、二者をかえした。バント攻めで相手のを脅かしたあと強打で加点と多彩な攻めだった。5、6回も併殺崩れやバント攻めでソツなく得点した。
 しかし、吉井の投球と内野の守りは心もとない。1回、駒大岩見沢の小林が三盗すると相手の三塁送球を三塁手が後逸して先制点を許した。9回には4点差を背負いながら力んで制球が甘くなり、内野ももたついていた。代打岡の二塁打で2点差と追い上げられ、なお一、三塁と危なかった。
 駒大岩見沢は、選球眼がいま一息、好機で難しい球に手を出すなど、制球に苦しむ吉井を助けてしまった。伸び伸びとプレーすることも大事だが、送りバントなど基本の徹底練習も必要だろう。

<3回戦> 箕島 2-8  高知商
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
箕島 0 1 0 1 0 0 0 0 0 2
高知商 2 4 1 0 0 1 0 0 × 8

 朝早い試合で、箕島のコンディションは万全でなかったようだ。吉井は立ち上がりから制球が悪く、コーナーを狙った球が浮き気味。加えて守備の動きが鈍く、1回、いきなり2点を先取された。先頭町田に遊撃右へ内野安打され、吉野の送りバントを間に合わない二塁に送って一、二塁。さらに山下の二塁右へゴロを野手が体に当てて安打にし、満塁。このあと津野に押し出しの四球、続く岸本の強い二ゴロを野手がはじいて併殺を逸し、三塁から吉野の生還を許した。
 2回にすぐ1点を返して追い上げ機運に乗りかけた箕島だったが、肝心の吉井が依然、制球難。その裏、二死から2四球と安打で再び満塁のピンチに立ち、津野に不用意に投げた初球の真ん中直球を左へ打ち込まれ、早々と大勢を決められた。
 高知商・津野もカーブが思うように決まらず、本調子とはいえなかった。2回には山下にカーブを右翼線二塁打され、一死から田伏・角田の連安打で1点差にされた。しかし、一死一、二塁からの小林の投前バントを拾って判断良く三封、さらに吉井の三遊間安打で本塁を突いた角田をアウトにし、最大のピンチを脱した。
 箕島には焦りもあったようだ。2かいのこうげ檄にそれが見られた。ここは、回もまだ浅いことだし、じっくり攻めてもよかった。4回にも3連安打で1点を返したが。吉井の調子が相変わらずで、点差を縮めらないまま、後半は早打ちを繰り返し、津野を楽にした。バント失敗など、手堅さと粘りを身上とする箕島らしからぬ試合だった。