第73回<平成3年>全国高等学校野球選手権

和歌山大会

<準決勝> 智辯和歌山 6-2 市和歌山商
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
智辯和歌山 0 0 0 2 0 2 0 0 2 6
市和歌山商 0 0 0 1 0 0 0 1 0 2

 智辯和歌山打線が市和歌山商の青木投手の直球を狙い打ち、中盤に得点を重ねて逃げ切った。智辯和歌山は4回一死から、今大会これまで無安打だった東田に待望の左前打が出た。「彼に1本出れば」という試合前の高嶋監督の言葉通り、ベンチの雰囲気はこれで楽になった。小久保が四球、高瀬が死球で一死満塁の好機を迎え、狗巻の中堅への犠飛、高嶋の右翼線安打でこの回2点を先制、前日の練習中にけがをした杉浦にかわってこの日先発した高嶋は6回にも二死一、三塁から2者をかえす二塁打を放つ活躍を見せた。智辯和歌山は9回にもダメ押しの2点を追加。
 市和歌山商の青木は3回まで変化球でかわす投球で智辯打線をおさえたが、直球主体の投球に切り替えたところを打たれた。打線は4回無死満塁から山田友の右犠飛で1点をかえし、8回にも1点を追加して追いすがったが届かなかった。

<準決勝> 星林 5-3 田辺工
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
星林 0 1 1 1 0 2 0 0 0 5
田辺工 0 0 0 0 0 3 0 0 0 3

 松田の2本の本塁打などで中盤着々と得点した星林が2年連続で決勝進出を決めた。星林は2回一死から松田が田辺工・中川の3球目の直球を右翼へ先制本塁打。これまで3試合連続無失点の投球を続けてきた中川から1点をもぎとった。3、4回にも安打に犠打をからめて1点ずつ追加、試合の主導権を握った。6回には安打で出た和歌を一塁に置いて一死後、松田が中川の3球目今度はカーブを右中間の一番深いところまで運んだ。
 田辺工・中川は前日の伊都戦の終盤に右手中指のマメをつぶして、ボールを握る手に力が入らない状態だった。決め球となる外角へのカーブが曲がらず、高めに浮いた。星林に左打者が多くいたこともカーブを投げにくい一因になった。田辺工は6回浜口、中道の連続安打でまず1点、四球犠飛などでさらに2点を追加、2点差に迫った。8回の雨の中断の後も走者を出して攻めたが流れを変えることはできなかった。

<決勝> 星林 4-8 智辯和歌山
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
星林 0 0 0 1 0 0 0 2 1 4
智辯和歌山 0 0 3 0 2 3 0 0 × 8

 智辯和歌山は本来の打って勝つ野球を初めて、しかも十分に見せつけた。序盤は星林の松田のゆるいカーブにタイミングが合わず、1、2回は無得点に終わった。投手戦になりそうな気配。しかし、智辯の打者は直球に的をしぼり、狙い球がくると迷わず振りぬいていた。
 3回、この作戦が当たった。先頭の高嶋が左翼線に安打で出塁、友永がバントを警戒して前進してきた三塁手の頭上を抜いて続いた。中田がきっちりと送り一死二、三塁として湯浅が打席に立った。1-0からの2球目、直球だった。打った瞬間に左翼フェンスを越えるとわかる当たり、3点本塁打で先制した。5回に2点、6回に3点を加えて試合の流れをつかんだ。
 星林は4回二死一、二塁から加藤の内野安打で二塁走者中川が一気に本塁を突く好走塁。1点を返した。大会5試合で17盗塁を記録した星林の機動力は決勝でも光った。8回には先頭の中川が四球で出て、一死後照井の右翼線への二塁打でかえり1点。松田が右前打を重ねてさらに1点を追加、9回にも二死から控えの3年生西出が意地の二塁打。照井が中前打でかえし、南部戦でみせた終盤の粘りを決勝でも示したが最後は届かなかった。
 この試合、星林の加藤主将は捕手で先発。4回途中から先発にかわってマウンドへ。5回途中からは左腕南出にマウンドをゆずって再度マスクをかぶった。しかし南出は智辯和歌山打線につかまり、加藤は6回途中から再び投手を務めた。経験のない2年生投手2人の面倒を半年間見つづけ、自らも投手と捕手の練習を両立させた加藤。決勝では意地の投球を見せ打者14人を被安打1に打ち取って最後の夏を飾った。
 智辯和歌山も万全な状態ではなかった。先発小久保はこの6月、投げ込みすぎてろっ骨にひびが入った。一時は体を動かすこともできない状態だった。練習を再開できたのは7月に入ってから。今大会は2年生投手の石井と2人でマウンドを守ってきた。決勝でも2人の継投。「おたがい良いライバルとして高めあってきた」と高嶋監督は2人をたたえた。
 今大会、智辯和歌山は好投手とたて続けに対戦して苦戦を続けてきた。主軸の犠打も辞さない戦い方で勝ち抜いてきた。決勝でも終始リードしながら4番東田のスクイズを含む7犠打を記録した。「智辯和歌山の戦いぶりとは思えない」と周囲は口をそろえる。「そうでもしないと今年のチームでは勝てなかった」と高嶋監督は試合後苦笑した。しかし、試合を重なるごとに確実にいままでとはひと味ちがう強さを身につけ、たくましくなった。

全国大会

<1回戦> 智辯和歌山 2-3 学法石川
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
智辯和歌山 2 0 0 0 0 0 0 0 0 2
学法石川 0 0 2 0 1 0 0 0 × 3

 学法石川の川越が、5回二死二、三塁から暴投で得た幸運な勝ち越し点を、度胸満点の投球で守り切った。特に8回は無死三塁のピンチ。ここで2番以下を直球で勝負に出て三振、三振、中直に封じたのは見事だった。打線も3回に3連続長短打とスクイズで同点にするなど、ここ1番で集中力を見せた。
 智辯和歌山は1回、安打と2つのバントに野選がからんで一死二、三塁とし、ボークとスクイズで先制。そつなく攻めたが2回以降は直球を中心にした川越に毎回の13三振を奪われ、力負けした。