第9回<大正12年>全国中等学校野球選手権大会

紀和大会予選

<予選> 和歌山中 - 海草中

 規定により敗者復活した海草中は決勝に進出、和歌山中と対戦ダブルヘッダーを強行し夕陽傾く午後5時半よりプレイボール。3回海草中が遊撃、中堅手のトンネルに2点を先取して意気が揚り和歌山中は神埼投手のスローボールを打悩みあせり気味、5回日没迫る夕闇の中に二死満塁の好機を迎え押し出しと捕手パスボールに漸く同点となったが意外な結果に場内騒然となる中に日没ドロンゲームとなる。

<決勝> 和歌山中 5-2 海草中
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
和歌山中 2 0 0 1 0 0 0 0 2 5
海草中 2 0 0 0 0 0 0 0 0 2

 7月31日前日の引分戦に興味を呼び、両校の応援団繰り込み殺気みなぎる光景は紀和大会未曾有のことであった。
 先攻の和歌山中は1回田島適時安打を放って2点先行すれば、海草中もその裏和田左翼線二塁打と吉田三匍失に忽ち同点となり好試合を展開。4階和歌山中は野田の安打で1点リードしたがその後は、互いに譲らず熱戦を続け最終回、山本・明楽の長打に常勝和歌山中凱歌揚げる。

<紀和決勝> 和歌山中 5-1 郡山
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
郡山 0 0 0 0 0 0 1 0 0 1
和歌山中 0 0 0 0 0 3 0 2 × 5

 郡山は好投手野田を有し、戦前両軍の技倆伯仲で接戦予想された上、奈良勢の応援多数乗り込み凄みを利かすとの噂さに万一に備えて和歌山勢も応援団繰り込み、試合前から殺気立つ有様。
 前半郡山・野田投手に封じられ、5回山本の三塁打も空しく漸く3安打と敵失に3点、8回にも無死満塁の好機を迎え四球と捕逸で2点を加え漸く勝利を不動のものにした。郡山は1回森田中堅越三塁打したが、後続空しく7回松田の内野安打と松山の二塁打に1点返したのみ、戦前では紀和決勝として最も、緊迫した試合を演じたのはこのゲームであった。

全国大会

<2回戦> 和歌山中 9-2 金沢商
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
和歌山中 1 1 0 0 1 3 0 1 2 9
金沢商 0 0 2 0 0 0 0 0 0 2

 和歌山中1回四球に出た柳盗塁と捕手暴投に1点、2回4個の四球に押し出しの1点を加えたが、金沢も3回二死後、土師死球、徳光右翼安打したのを野手三塁へ高投して生還、更に投越安打に同点となった。
 和歌山中は5回に至り田島左前安打、バントに送られ寺井の適時安打に1点リード、更に6回明楽死球、柳右翼線上に二塁打し、高木の遊匍暴投に2者生還、高木も田島の遊葡失と由良の投匍に得点3点を加えて大勢を決した。

<3回戦> 和歌山中 8-2 広陵中
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
和歌山中 4 2 1 0 0 0 0 1 0 8
広陵中 0 0 2 0 0 0 0 0 0 2

 和歌山中は1回柳二死後、明楽四球、高木左越三塁打に生還、更に田島四球二盗後、由良の適時安打に2点、野田二塁頭上を抜き二盗、山本の安打に由良生還、野田も本塁を欲張って憤死したが立ち上がりから安打集中4点をリードして意気揚がる。
 更に2回、寺井四球バントに送られ、明楽も還えり3回には安打と敵失に1点を加え前半断然敵を圧す。
 広陵は3回一死後、沖四球、平田の左翼線二塁打と正田の遊越安打に2点を返せるのみ。後半は5安打を散発したのみで反撃の好機なく和歌山中に凱歌揚がる。

<準決勝> 和歌山中 7-3 松江中
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
和歌山中 2 0 0 0 0 1 1 3 0 7
松江中 0 0 0 0 0 0 0 3 0 3

 和歌山中1回熊谷投手の乱れに乗じ2個の四球と内野失で労せずして2点先取し、6回高木三遊間安打、田島三匍高投に二進した時、由良適時安打して高木生還、7回一死後、柳三匍高投に二進し二死後、田島の遊撃安打に1点、更に8回野田遊匍高投に二進後、寺井、柳の安打と3個の四球、バントで致命的な3点を加えて大勢を決した。これに対し松江は4・5・6各回走者を三塁に送りながら無得点に終わり漸く8回4安打を集中して3点を挽回したが、日暮れて既に道遠く敗退した。
 松江の内野陣にエラー多くしばしば一塁高投して、むざむざ二塁を与えたのは味方の投手の負担を重くし敗因となった。

<決勝> 和歌山中 2-0 甲陽中
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
甲陽中 0 0 0 4 0 0 0 0 1 5
和歌山中 1 0 0 0 0 0 0 0 1 2

 約1ヶ月前に和歌山中が甲陽を自校に迎え勝っているだけに、6分4分で和歌山中有利と予想された。和歌山中は劈頭柳二塁安打し、明楽死球、捕逸に二、三進、高木二飛となったが田島期待に反せず中前安打し幸先良い1点先行した。
 なお明楽も本塁を衝いて憤死したのは惜しかった。しかし4回甲陽は四球の2走者をバントで送った時、藤田左越三塁打を放って堂々2点を還し、更に山野井三匍低投に生き井上の遊匍と芝の投越安打で2者を迎え一挙に形勢逆転、和歌山中は必死となって挽回に努め、7・8両回満塁となったが後続不振、9回漸く二死後、高木左翼二塁打し、田島の二匍失に1点奪回したが健斗及ばず3年連続制覇の夢ここに破れて初陣の甲陽に名を成さしめた。
 甲陽中は決して最上の強力チームとは思わなかったが、それが連日強敵を下し優勝を遂げたのは全く精神力の賜といえよう。