第8回<大正11年>全国中等学校野球選手権大会

紀和大会

<決勝> 和歌山中 5-0 郡山中
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
郡山中 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
和歌山中 2 0 2 0 1 0 0 0 × 5

 郡山はしばしば好打を放って和歌山中陣営を脅かしたが、得点するに至らず、和歌山中は野田投手を打ち悩み安打こそ少なかったが、1回バント攻めに2点、3回にも安打と犠打で2点、5回敵失で1点と小刻みに試合巧者振りを発揮して得点を重ね制勝した。

全国大会

<1回戦> 和歌山中 8-0 早稲田実
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
和歌山中 2 0 2 0 0 0 0 0 4 8
早稲田実 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

 和歌山中の攻撃大いに振い1回先頭打者、田島左中間を破る三塁打を放ち深見の左飛に生還、井口四球後、安打と高村二匍失に1点を加え早くも2点を挙げ幸先良し。3回柳右中間二塁打し深見・井口の安打で2点、その後小康を保ったが、最終回二死後から深見二匍失、井口一匍失に出るや、武井の適時安打と高木の右中間三塁打に止どめの4点を加えた。これに反し早実は井口投手の制球力豊かな変化球が打てず、僅かに3安打に終わり8回漸く三塁を踏むといいう貧攻振りで全然良いところがなかった。

<2回戦> 和歌山中 4-1 立命館中
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
和歌山中 2 0 1 1 0 0 0 0 0 4
立命館中 0 1 0 0 0 0 0 0 0 1

 和歌山中は第一打者田島いきなり右翼越本塁打して、敵胆を奪い柳三匍悪役に生きバントと井口の右前安打に早くも2点を先取す。更に3回には一死後、深見左中間に本塁打し4回は敵内野陣の乱れに乗じて1点と着々得点を重ねて断然優勢、後半は立命投手力投して無得点に防いだが肝心の打線不振で2回安打の右前適時安打で1点を返したのみ、6回には無死満塁と攻めながら井口投手の力投に三者三振に討ち取られ、後半の善戦も空しく和歌山中の軍門に降る。

<準決勝> 和歌山中 2-1 松本商
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
和歌山中 2 0 0 0 0 0 0 0 0 2
松本商 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1

 両軍投手の好投に緊迫な投手戦となり、和歌山中は立ち上がり敵内野陣の堅くなった連失に2走者を出し期待された深見三振したが、井口左越二塁打を放って堂々2点を先行した。しかしその後は三塁を踏む者なく、一方松本も8回まで1安打、毎回凡退を続けたが、最終回一死後、田中、中越三塁打を放ち河村の二遊間安打に還えり差1点と迫り俄然ゲームは白熱化した。続く黒田の投匍二塁悪役を誘い、2者ともセーフ、更に重盗成って波乱を捲き起したが小林の二飛に併殺、和歌山中は危機を脱して快勝したが最後まで手に汗握る好試合であった。

<決勝> 和歌山中 8-4 神戸商
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
和歌山中 0 0 0 0 0 0 0 5 3 8
神戸商 3 0 0 1 0 0 0 0 0 4

大会随一の大立物浜崎投手を有する神戸商に対して和歌山中の苦戦は予想されたが和歌山中は左腕浜崎の剛速球に得意の健棒が牛耳られ2回一死満塁を迎えながら2者三振、4回にも二死走者二、三塁に拠ったが武井三振して無得点に終り、その後7回迄従らに浜崎の好餌となるのみ。一方神戸商は一回二死後、山田・今中・中野の3安打集中して忽ち3点リード、4回更に中野遊匍、一塁悪投に二進し酒井・西垣のバントに手固く1点を加えて浜崎の出来栄えから見て到底挽回不可能と思われた。
 然し和歌山中は飽くまで屈せず8回好打順を迎えラストバッター阪井中越し捕逸に三進、田島の内野安打に生還、敵陣はこれに動揺したが柳の二匍失、深見の三塁上を抜く痛打に1点、井口中飛落球に柳、深見あいついで生還、井口も武井・高木のバントに還って一挙5点を奪い形勢逆転、満場総立、狂喜乱舞す。浜崎もがっくりときたが、疲れを見せ9回二死後より四球と味方内野陣の連失に満塁、更に捕逸と井口の二匍不規則バウンドして安打となる幸運も加わって止どめの3点を加えて終幕の大波乱に危うくうつちやり2年連続優勝の新記録を樹立した。それにしても本大会に示した和歌山中の上位打線の打撃は中学選手のレベルの上にあり、真に見事なものであった。味方バックスのエラーにも気を落とさず、全軍を引緊め引緊め4点の負担に苦しみながら頑張り通し、打っては3安打を放って名実共に一軍の大黒柱として活躍した井口投手に敬意を表したい。