第32回<昭和35年>選抜高等学校野球大会

<1回戦> 関西高 2-3 海南高
  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
関西高 0 0 1 0 0 0 1 0 0 0 2
海南高 1 1 0 0 0 0 0 0 0 1 3

 双方打力に大きな開きは認められず勝負のカギは投手力にあるとみられたが大会屈指と前評判の高い海南木原投手は練習過度から背筋を痛めて思わぬ不調にあえいでいた。しかし試合は予想外に接戦となった。
 関西は初回内野安打とバントから早くも一死三塁の絶好の先制機を迎えたが肝心の主軸3人が木原のシュートとカーブにあしらわれて逸機したのは木原を打ちくずしのチャンスだっただけに何としても惜しまれた。
 相手の投手が未知数、しかも回が浅いのだからここは手堅くスクイズに出て士気を高めるのが至当であった。その裏海南が内野失をきっかけに河尻の右中間二塁打と堂上の適時打で先取点をあげ初回の動揺から抜けきっただけになおさらの感が深かった。勢いにのった海南は2回にも二死一塁のチャンスに松田の中前テキサスを、追った遊撃手が、一塁に悪投したのに乗じてリード点を拾った。しかし、地味ながらねばりに富む関西はあせらず、3回には竹内、高田の上位打者が伸びのない木原の内角、あるいは外角よりの直球を好打し点差をつめた。海南木原はこの失点でむしろ落着きを取り戻した形で伸びを欠く速球を捨て、もっぱらシュートにたよるピッチングに活路を求めたのは賢明であった。
 関西は大きく割れるアウト・カ-ブでカウントを整え内角に食い込むシュートで勝負に出る木原の技法に対しカーブの大半を見送り不利なカウントに追い込まれてはシュートに手こずるまずい攻撃を繰返し、これが中盤の打力不振を招いたが、外角球を右翼にねらい打つ策に出ておれば様相はぐんと変ったに違いない。しかし関西は木原に執拗に食い下がり7回捕飛を投・捕手譲り合ってテキサス安打とするチャンスから二盗とこの日あたり屋の8番桂木の三塁適時打でタイに持ち込んだ闘志は木原が球威を欠くとはいえあっぱれであった。
 一方海南も球が高めに浮きがちだった関西佐藤を前半に押し切れなかったのが大きなつまずきとなり直・曲球とも低めに制球する佐藤のペースに引き込まれてはチャンスをつかめずついに今大会初の延長戦に勝負は持ち込まれた。1点をめぐって延長にまで持ち込まれた熱戦も10回海南の駆け引き巧みなスクイズ・バント成功で終止符を打った。10回関西が桂木、竹内の好打で迎えた二死一、二塁の好機を気負った原田が右邪飛にしとめられて逸機したあと、その裏海南は一死後松田、宮脇の連打で一、三塁の絶好機を迎えた。関西としては当然定石通り満塁策をとると思われたが、事実は案に相違して次打者小椋と勝負に出た。小椋はスクイズを決め2時間半にわたる試合に終止符を打った。

<2回戦> 海南高 0-1 法政一
  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11
海南高 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
法政一 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1

 海南の木原投手は背中の筋肉を痛めて第1戦は不調だったが、この日はその痛みがなくなったのか前試合と見違えるようなピッチングをみせた。長身の横手からグイと腕をよくうしろにのばして投げるので速球シュートとも威力があり、法政はこの木原からなかなか好打を奪えなかったが11回遂に数少ないチャンスをものにして決勝点をあげた。法政はバックがよく守って鈴木投手を助け海南に乗ずるすきを与えなかった。海南は6回まで無死で出塁すること4度に及んだが鈴木の落ち着いたピッチングに決定打を奪えなかった。鈴木はカーブ、シュートをうまく織りまぜて好投したが、とくに5回などは海南の下位打者につるべ打たれてまったく危なかった。しかしこの時は無死安打に出た石川を捕手のけん制球で刺し、一死一、二塁で松田に中堅へ好打されたが、中堅手の判断よく走者を二封してピンチを切り抜けた。また4回に隠し球で同じく一死の走者をやり玉にあげるなど2度も巧妙なトリックが法政のピンチを救った。法政は7回まで2安打、8回に初めてチャンスがあったがものにできず結局0-0のまま延長戦にはいった。"スッポン戦術"とまでいわれる程粘りを信条とする法政一は遂に11回矢嶋のヒットからチャンスをつかみ、バントで送ったあと、立川が中堅へ好打し一死一、三塁金森敬遠の四球で満塁となり続く平田が0-2後の第3球目を中堅へ殊勲打して決勝点をもたらした。結局法政独特の粘り勝ちというほかはないが、海南は前半たびたびあったチャンスをものにすることができず法政のペースに巻き込まれたのが敗因であった。それにしても何度もピンチを切り抜けた法政の堅い守備力は特筆され、また後半回を追うごとよくなった鈴木の健闘も見事だった。