第33回<昭和36年>選抜高等学校野球大会

<1回戦> 御坊商工 8-9 北海高
  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
御坊商工 0 2 0 0 0 0 2 2 2 0 8
北海高 0 4 2 0 0 2 0 0 0 1 9

 双方投手力がやや非力なだけに打撃戦は当然予想されたが、試合はその予想を上回る壮烈な打ち合いに終始、気早な観衆の足をくぎづけにするスリルに富んだシーソーゲームとなった。北海の主戦投手高田は上手投げの正統派だが、球そのものの威力に乏しく、ことに立ち上がりの制球難は彼の投球をいっそう苦しいものとした。この虚に乗じた御坊打線はカウントを整えようとする高田投手の好球を早いカウントから打って出る積極攻撃に出た。
 しかし御坊の頼む横手投げの笹投手も球威の乏しい点では北海の高田と変りなくスピードを殺した直球とカーブ、シュートをうまく間をとりながら丹念にコースを投げ分けていたが、密度の濃さでは御坊をしのぐ北海打線相手では前途の不安はおゝうべくもなかった。果して北海は2回三塁失、死球からつかんだ一死一、二塁の好機に辻の二塁ゴロを腰高な二塁手が後逸する幸運に1点をむくいたあと笹投手の内角好球を強振した武田(勝)の左翼三塁打で2者を迎えて逆転、小林も2-1後遊撃右を抜いて武田をかえし2点のリードをする。
 この反撃に自信を深めた北海は3回にも鈴木の二塁打を含む3本の集中打で2点。6回にも福島、辻󠄀の連続長短打で笹を退けたあと、代った左腕太田からも武田の右翼線二塁打とスクイズ成功で2点を加えて勝負のヤマは見えたかに思われた。しかし"黒潮打線"の異名をとる粘り強い御坊打線は少しもひるむことなく、終盤になって反撃に転じ、北海内野陣の乱れからチャンスをつかんだ。7回には坂上の犠飛と柿本の右前適時打で2点。8回は富村以下が高田投手の球威の衰えにつけ込み4長短打を連ねてその差2点と追いすがった後、9回には柿本の好打と二塁失から無死一、二塁とした好機に島原が高目好球を右中間に鮮やかに二塁打してついにタイとする驚異的な底力をみせた。
 北海高田、御坊笹ともにいま一息制球力が乏しく、球威の不足をコースと配球の工夫でカバーする努力にももの足りなさを感じさせたところにこの乱戦の図があった。だが球道にさからうことなくミート専一に鋭く振り出す両軍打線の素直な打法をたたえるべきた。
 かくして試合は御坊太田、北海今井と二番手投手に受け継がれたまま大会初の延長戦にもつれ込んだ。延長10回今井の四球からチャンスが芽生えた北海は鈴木の捕前バントを捕手が間に合わぬ二塁に投げて野選となる幸運に恵まれ、塩島死球で無死満塁の絶好機を迎えた。重苦しいまでの緊迫感が球場内を押し包むうちに、試合は歩一歩と終局に近づいたが、御坊の太田投手は辻󠄀を三振、当たりや武田を浅い右飛に仕止めたまではよかったが、続く小林に0-1後左足に死球を与えて押し出しの決勝点を許すというあっけない幕切れとなった。
 極度の緊張感にさいなまれた太田投手の失投を責めるのは酷というものであり、球神のいたずらと片付けるのにはきびしすぎる試練でもあった。