第35回<昭和38年>選抜高等学校野球大会

<1回戦> 海南 15-3 博多工
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
海南 1 3 0 1 2 2 0 3 3 15
博多工 0 0 0 1 2 0 0 0 0 3

 試合運びにそつがなく、右翼打ちも巧みな海南が、九州指折りの好投手博多工の左腕漆間にどう立ち向かうかが焦点であったが、その強みは、はやくも序盤戦で生きた。
 初回成川、阪本の長短打で1点。2回にも石川の右前打につづく橋爪、山下の連続バント安打で無死満塁、つづく川井の投ゴロを漆間併殺をあせって本塁送球が大きく右寄りにそれる幸運に石川が還ってなお満塁の好機、博多ベンチはここで同じ左腕の池田に切り替えたが代りばなの成川の二ゴロを二塁手後逸する手痛い失策に2者の生還を許して差は4点と開いた。
 博多のリリーフ、池田は漆間に比べてピッチングも素直であり、決め手に乏しい。こうなると打撃に柔軟性があるだけ海南に分がある。近目はひっぱり、外角よりの球は中堅方面に打ちかえす理詰めの打法で6回まで毎回安打、全員安打の13安打を記録、走者がうまいスタートで遊撃手を塁にひきつけその逆をつくあざやかなヒット・エンド・ランの成功などもあって計9点をあげ前半ではやくも安全圏に逃げこんだ。
 しかし海南のエース山下のできもよくなかった。スピードは増してはきはしたが、半面制球力があまくなったからだ。力のある打者の多い博多はおくればせながら反撃を開始、4、5回に計3点をむくいた。だが攻めあせるあまり、くずれる寸前の山下を自分のペースに引っ込めず、4度にわたる満塁機も最少得点にとどまった。
 投打とも真価を発揮できないままに終わった博多には同情されるが、試合の流れと相手の体勢をみきわめたうえで試合をはこべるかどうかのちがい、いいかえれば伝統を背景とした鍛え方の差が、極端な形で明暗をえがいた一戦であった。

<1回戦> 南部 2-3 丸亀商
  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11
南部 0 1 0 0 0 0 0 0 1 0 0 2
丸亀商 0 0 0 0 0 0 0 0 2 0 1 3

 2回南部は坂口が第1球を痛打して三塁線を破り、チャンスの芽を作った。つづく西垣の遊撃ゴロも、併殺コースだったばかりに遊撃手の二塁悪投を誘って、坂口は一挙に三塁へ進んだ。ここで垣渕は0-3から強引に出て左犠飛を打ち上げ先手をとることに成功した。
 南部西垣、丸亀池田両投手の立ちあがりはまず順調だった。だが南部の打線は池田投手の変化球をよく引き付けてねらい打ちしたので当たりが鋭かった。一方丸亀も力投する西垣によく食い下がり、2、4回二死満塁と肉薄した。とくに4回は、西垣がコーナーをねらいすぎて制球に苦しむのをよく攻め立てたが、後藤の痛烈な一撃が右翼手の真正面をついたのは惜しかった。
 2度にわたる丸亀商の逸機で、南部リードのうちに試合は終盤を迎えた。こうなると3番から6番までずらりと左打ちの選手を並べた丸亀商の異色ある打線がいつ西垣をとらえるかということが勝負のポイントになってきた。この左打線が、4回吉田、池田が連続安打して早くも本領を発揮しかけたのだが、吉田から始まった6回の攻撃は、強気の西垣がのびのある速球で内角をつき、すっかり抑えこんだ。
 南部が9回柴田の殊勲打で1点を加えたので、形勢は7、8分どおり決まったかと思われた。ところが丸亀商はその裏、左打線が待望の火をふいて同点に追いついた。
 まず吉田が無死で二塁手の頭上を破ったあと、池田も右翼線に快打して一、三塁、池田二盗のあと、万城、森本が連続スクイズのみごとな速攻で二走者を迎え入れた。西垣が吉田、池田にうたれたのはともに内角球、6回にはそれが成功したのだが、どたんばだけにやや功を急ぎすぎたのは不覚だった。
 こうして大会初の延長戦に入った熱戦は"追うものの強み"というたとえのとおり、11回丸亀商のサヨナラ勝ちで幕を閉じた。しかも働いたのは再度左打線だった。この間、光岡が無死でストレートの四球、吉田の1球目の捕逸に乗じて二進した。吉田はすかさず第2球左中間に好打して決勝の1点をあげた。

<2回戦> 海南 2-3 下関商
  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16
海南 2 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 2
下関商 0 0 0 0 2 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 3

 海南の先制攻撃のうまさは全く堂に入ったものだ。1回成川、橋本が下関商、池永投手の自信をもって投げ込んだ速球を好打して一死一、二塁とおびやかした。これには大会指折りの好投手、池永もかなり動揺した。強打の阪本を迎え気遅れし、さかんに走者をけん制して海南の気勢をはずそうとした。ところがこれは悪く、阪本の1-0後の一塁けん制を悪投して二塁から成川の生還を許し、さらに阪本の遊撃ゴロも野手の返球がそれて下関商は惜しい2点を失った。
 その裏、下関商もトップの坂本が死球に出ると、清田、西村が連続バント、これが前進守備の野手の間を抜いたり、失策をさそったりで、無死満塁という予期以上の効果をあげた。しかし海南はその後石川一塁手が真正面をつく佐野の一撃をうまくさばいて併殺に切り抜け、立ち上がりの優勢を守った。
 2回からは池永投手は落ち着きをとりもどし、外角低目をつく得意の速球がきまりだして海南の攻撃を抑えた。一方、海南山下投手もバックの攻守にもりたてられてよく対抗した。海南のリードのうちに早いペースで後半に入った。下関商は5回、岡田が右前打に出ると、二死後加治が1-3から右中間を破る会心の一撃を飛ばして岡田を還し、坂本勝も一塁手の頭上を抜く適時打とつづいて反撃を実らせた。
 これをさかいに両軍の攻撃は目にみえて活発となった。また守備側もみごとなプレーを展開してゆずらす、終盤はものすごいまでの盛り上がりのうちに、延長戦となった。
 こうなると投手力がものをいうとみるのが常道だ。池永は後半シュートで海南の右翼打ちのねらいを封じ、カーブも外角にきまって全くスキのないピッチングを続けた。しかし粘り強い海南は14、15回と無死の走者を出して押しまくった。16回にも川井が無死で中前安打、成川のバントのあと栩野も中前に快打して一、三塁の絶好機だったが、橋本の第1球にはかったスクイズが不成功に終わってまたもチャンスを逸した。
 その裏、下関商は清田が二塁手の左を破り、佐野も四球で一、二塁となった。つづく池永が0-1後の高目球をたたくと無心の打球は風にのって中堅手の頭上を大きく破り幕切れを飾る殊勲の二塁打となった。