第51回<昭和54年>選抜高等学校野球大会

<1回戦> 前橋工 11-0 田辺商
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
前橋工 4 0 0 2 1 0 0 3 1 11
田辺商 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

 投打に前橋工が田辺商を圧倒した。初陣の田辺商は浮足立っている間に大量点を失い、すっかり前橋工のペースにはまり込んで普段の力を出せなかった。
 田辺商の左腕・宮本は制球が甘く、立ちあがりつかまった。1回、前橋工は1、2番の境野、腰塚が連続四球で一、二塁。続く岡部の二塁ゴロは、ヒット・エンド・ランがかかっており一死二、三塁、ここで泉は2度スクイズ失敗のファウルのあと左中間を破る二塁打して2点の先制。二死後、高橋桂は1-1後の内角寄りを左越えに2点本塁打(大会第6号)計4点をもぎとった。いずれも宮本がストライクをとりにきた好球を逃さずねらい打った。
 前橋工は、4回にも先頭の小川が右越え二塁打、阿部が手堅く送ったあと境野が中前適時打。その境野が二、三盗を決めた二死後、岡部の中前安打で生還。5回は一死二塁から青山の左翼線二塁打で加点するなど、自在の攻撃を見せ前半で大勢を決めた。
 田辺商に惜しまれるのは前半の逸機。2回、宮本が歩いて無死一塁、4回は一死後、西・宮本の安打が続いた二、三塁。さらに5回にも鈴木清の安打と失策で一死二、三塁とした3度の反撃機とも、強攻に出て失敗した。ここはまだ前半であっただけに、もう少しじっくり攻め、1点ずつでも返す策がとれなかっただろうか。
 前橋工は、先発・小川が7回一死後までリストの効いた速球を武器に無難な投球、このあとを蓮場、番場と3人の投手全員を登板させるなど、余裕のある試合だった。

<2回戦> 箕島 10-4 下関商
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
箕島 0 0 0 5 0 1 2 0 2 10
下関商 1 0 0 0 1 0 2 0 0 4

 箕島が大ワザ、小ワザを織りまぜる鮮やかな攻撃で勝利を決めた。
 3回まで下関商右腕・山本のカーブがさえて、箕島打線は6三振、全くバットが合わなかった。ところが、強打の箕島は3回からストレートに的を絞って攻め、4回先頭の上野山が中越二塁打。続く北野のバントは前進した投手の頭上を破るラッキーな内野安打。ここで箕島は動揺する下関商の守備陣をかく乱するかのように上野・森川がバント攻勢。上野は走者を二、三塁に進め、森川はスクイズに成功、二塁手の野選で自らも生き一死一、三塁とした。
 箕島の見事なバント戦法に下関商ナインは浮き足立ち、石井が山本の甘いカーブを左前打すると左翼手が後逸する痛恨のエラー。ここで2者が還って、石井は三塁を奪った。箕島はなおも攻撃の手をゆるめず久保が右中間三塁打、榎本は投前スクイズ・バントで揺ぶり、この回打者10人で一気に5点、試合の主導権をがっちり握った。
 箕島は、このあとも7回に宮本・上野山・北野の3連打やスクイズで2点を加える猛威を振い、結局、全員安打で15本を放つ強打を発揮した。
 しかし、箕島の石井投手は1回から乱れ気味で、下関商の先頭打者米田にいきなり死球とボークで二塁を与え、福原に左前打され1点を許した。下関商は5回にも米田の左前打を突破口に二死一、二塁とし、山本の左前打で1点、7回には楠の三塁強襲二塁打から敵失を混えて二死満塁とし、山本が中前適時打して2点とよく食い下がった。
 下関商の健闘は見事だったが、箕島は優勝を目指すにふさわしい攻撃を備えながら、投手力にいちまつの不安を残した。

<3回戦> 倉吉北 1-5 箕島
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
倉吉北 0 0 0 0 0 0 1 0 0 1
箕島 1 1 1 0 1 0 1 0 × 5

 箕島のバントを織り込んだ速攻が鮮やかだった。初回、嶋田宗が三塁失で出て二盗するとすかさずバントで三塁へ進め、上野山の右犠で先行。2回は内野安打の森川を送り損ねたが、久保が痛烈な右中間三塁打でカバーし、3回嶋田宗が再び左翼手のへい際の落球で二塁へ出るとバント2つで3点目を加えた。箕島打線の振りは鋭く、嶋田宗の2度の出塁も記録は失策だが、いずれもヒット性の当たり、この強打を背景にした正確なバント攻撃がみごとだった。
 倉吉北の矢田投手は箕島の強打を警戒してカーブを多投。球威は十分あった。低めを心掛けるのはいいが、内角高めのシュートをもっと織り込みたかった。箕島の石井は序盤セーブ気味にゆさぶって投げ、優位に立った中盤から力で押し、6回はクリーン・アップ・トリオを連続三振に取った。この辺に両投手のキャリアの差が出た。
 箕島はその後も、5回は嶋田宗の中越え三塁打とスクイズ、倉吉北が1点をあげた7回もすぐ久保の長打を足場にバントと犠飛で差を広げる理想的な試合運び。
 倉吉北は前半、石井の切れのいいゆさぶりに苦しんだが、後半、地力を見せた。7回山根・池上の長短打で1点を返し、8回も2安打、最終回も敵失と安打で好投手石井を脅かした。

<準決勝> PL学園 3-4 箕島
  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
PL学園 1 0 0 0 2 0 0 0 0 0 3
箕島 0 0 0 1 0 0 0 0 2 1 4

 1級の打力がぶつかり合う重量感あふれる試合だった。後半はさすがに投手力の差が出て箕島が押したが、それにしても土壇場の9回に追いついた箕島の集中力はすごかった。
 2点リードされ中盤以降逸機を続けた箕島は、打者がトップに返った9回早いカウントから打って出た。嶋田宗・宮本が連打し、中堅手のエラーも手伝って、一、三塁。上野山はバント・シフトの間げきをつく巧妙なプッシュ・バントを安打にし、無死一、二塁で1点差、このあと北野のバントが投飛で一塁走者との併殺となり、九分通り試合が決まったかに見えた瞬間、上野が外角寄りの高めを右中間へ同点三塁打した。
 延長10回、PL学園が徳永の安打を生かせず、一死二塁のチャンスを逃した裏、箕島は二塁内野安打の石井を送り榎本の中前打で一、三塁。PL学園は中西に代えて阿部をマウンドに送ったが、第1球が決勝点を許す暴投だった。ここまでくれば勢いだった。
 PL学園・中西、箕島・石井両投手が終始よく投げながら、しかも常に波乱を含んだスリリングな展開だった。
 ともに下手投げ同志だが、上位に左打者を並べた両打線に有利に働き、前半はPL学園ペース。初回一死後、三遊間安打の徳永をバントで進め、小早川が低目の球を中前打して先行。箕島が4回に1点を返した直後の5回幸運な右翼線安打の中西を送って、渡辺・徳永の長短打で2点、石井は前半、内角がなく左打者に狙いやすい組み立てになっていた。
 箕島は4回、四球、安打に犠打をはさんで一死一、三塁とし、石井は前進守備の三塁前へ凡打した無警戒な一塁送球の間をついて北野が本塁へ好走、中盤からじりじりと押し始め5、6回と一死満塁の好機を続けたが5回は北野の右前の当たりを好捕されて一塁走者と併殺。6回も強攻を中西の冷静な投球にかわされた。だが、この苦しいゲームの流れの中で6回以降、石井が内角を攻める力強い投球で、強打のPL学園をよく2安打に抑え、土壇場の反攻の呼び水になった。
 敗れたPL学園の中では3、7回にむずかしい打球を好捕して投手を助けた中堅手・徳永の好守がひときわ光っていた。

<決勝> 浪商 7-8 箕島
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
浪商 1 0 0 0 0 3 2 0 1 7
箕島 1 0 2 1 0 1 2 1 × 8

 まったく驚いた。こんなすさまじい優勝戦は、今まで見たことがない。取られても、すぐ取り返す。そしてまた逆転だ。両軍秘術をつくしての、全くめまぐるしい攻防であった。
 スタートからして波乱含み。浪商トップ椎名が右前打、片山はスリーバントを失敗したが山本四球のあと、人気者の香川が中前へ快打した。浪商のムード・メーカーが打ったのだから、浪商としてはここで一挙に箕島の石井投手をつぶしたいところだった。だが、後続の2人が凡退。箕島も、すぐ反撃した。二死から上野山・北野・上野と3連打で同点。これがきいた。箕島は3回にも2人の走者を置いて北野が中堅深く三塁打してリードした。北野は前日まで2安打だけ、4番打者としてはさっぱりだった。しかし、この日は燃えに燃えていた。
 4回、嶋田宗の三塁強襲のタイムリーが出て箕島は4-1と差をひろげた。4回表、浪商は一死二、三塁のチャンスがあったが打順が下位でものに出来なかった。4回の明暗がちょっぴり響くかと思った。だが、浪商はがんばる。6回のチャンスに川端が初球を狙い打ちして左中間二塁打、遊撃手の本塁悪投があって三進し、代打・森川の中犠飛で同点のホームを踏んだ。こうなると箕島が北野の三塁打のあとスクイズしながら走者のサインを見落としたのと、5回の本塁をついた走者が香川のブロックでアウトになったのが痛いと思った。
 ところが、箕島はそんなことを気にしていない。6回、敵失でころがり込んだチャンスを勝負強い嶋田宗の左前打でものにし、また1点リード。それでくたばる浪商ではない。7回、椎名が右前打、山本が右中間三塁打してあっという間に同点。打者に香川を迎えてスタンドはわきにわいた。香川は期待通りライト線へ逆転痛打、ゲームは最高潮に達した。その裏、箕島の北野に同点のホームランが出た。さらに上野が右中間三塁打、ここで森川が巧妙なスクイズバントを決めて内野ヒットにし、上野がホームインまたひっくり返った。チャンスをバントでことごとく得点に結びつけた箕島の緻密な試合運びは、まったく素晴らしかった。8回、二死からヒット、二盗の宮本をおいて当たり屋、北野が中堅右へ二塁打、これで史上初のサイクルヒットが成し遂げられた。この1点は浪商に与えた鉄鎚のような一撃だった。それでもまだ、浪商は最後までくいさがった。最終回、四球の山本をおいて牛島がレフトへ二塁打して1点差と詰め寄ったのだ。箕島の石井投手は最後の気力をふりしぼって井戸を捕邪飛、うるさい川端を二ゴロにうちとってやっと栄光のゴールに飛び込んだ。
 両軍投手は連投の疲れがあっていつもほどのさえがみられなかったとはいえ、健棒を誇る両打線だけに、火花を散らす打ち合いはまったく見応えがあった。特に"サイクル男"北野の強打が印象的であった。わずかに箕島が試合運びにすぐれていた。その差が勝敗に出たが花も実もある素晴らしい優勝戦だった。