第16回<昭和5年>全国中等学校野球選手権大会

紀和大会

<準決勝> 和歌山商 4-0 海草中
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
和歌山商 0 0 0 0 0 0 3 0 1 4
海草中 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

 前半0-0の均衡を保ち熱戦を演じたが7回和歌山商に幸運訪れ二死後、赤桐中堅安打し廻口2-0後死球に浴びし紫田の遊撃背後のフライ、東山・浜野が激突落球する間に2者生還、次いで重盗を刺さんとして山脇三塁へ暴投、海草中守備陣がたがたと崩れて致命的3点を奪われ9回にも二死後、廻口の右中間飛球を野手衝突し走者に三塁を与え、捕逸に止どめの1点を許して海草中シャットアウトを食う。

<準決勝> 郡山中 3-17 和歌山中
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
郡山中 0 0 0 0 0 3 0 0 0 3
和歌山中 2 0 2 0 2 6 0 5 × 17

 好守に勝る和歌山中は、前半着々と得点を重ね、後半は打ちまくって全く問題とせず6回以後、投手を西尾に代え余裕を残して大勝した。この日山下は本塁打2本を放って気を吐いた。

<決勝> 和歌山商 4-6 和歌山中
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
和歌山商 0 0 1 0 0 0 1 2 0 4
和歌山中 0 1 0 0 0 1 4 0 × 6

 和歌山商先発の廻口出来悪く、2回早くも紫田サウスポーに譲る。即ち2回一死後、山本死球、後藤左前安打、稲田四球後、投手暴投で1点を挙げれば3回和歌山商一死後、岡崎四球、井上左前安打し捕逸で忽ち同点となる。
 更に6回和歌山中・島本右中間に三塁打に出て大谷の遊匍に生還、リードすれば和歌山商も屈せず7回二死後から四球と久保の安打で再び同点に追い付き満場を唸らす。その裏和歌山中猛攻して稲田・喜多島、連続安打し山下四球で無死満塁となり岡の犠打や遊失、大谷の適時安打で一挙4点を加え大きくリードする。和歌山商必死に反撃に出て山下に代わった若漢西尾投手に対し赤桐左前安打し廻口本塁打を放って堂々2点を返し、その差2点と迫ったが及ばず和歌山中の優勝成る。和歌山商は2回以降、好投していた紫田投手を退け7回再び廻口をマウンドに送ったのは彼を過信してか、腑に落ちないが、両軍投手や不出来だったと言え打線大いに振って壮絶なシーソーゲームを演じて真に見応えある好ゲームであった。戦前実力は和歌山商やや有利と見られながら不安定の山下投手を打ち込み、先取点を上げるべきだったのにその機を逸したのは矢張り和歌山中の伝統の力の前に屈したといえよう。

全国大会

<1回戦> 和歌山中 24-2 北海中
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
和歌山中 9 0 1 4 0 1 4 2 3 24
北海中 1 0 1 0 0 0 0 0 0 2

 和歌山中は初回北海中の石沢、相馬に対して6安打と5個の四球を奪い致命的な9点を挙げた。この混乱の中に北海の投手は相当荒れ窮地に陥ったが、比較的良く守ったのは連続出場の場慣れにあろう。ただそれ投手の脆弱に至っては同情に堪えず、一方和歌山中・山下の無制球も又、驚く可く3個の四球を連発して走者を押し出す始末で前途に不安を思わせた。

<2回戦> 和歌山中 4-2 敦賀商
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
和歌山中 0 0 0 0 0 3 0 1 0 4
敦賀商 0 0 0 0 0 0 2 0 0 2

 両チームは好守共対等の力を保ち、和歌山中も敦賀商も下位打者の活躍に塁上を賑わし上位打者は不振だったが敦賀商は特に甚しかった。山下・小林の出来も優劣なかったが、小林が精魂こめて秘術を尽くした投球は実に悲荘を極めたものであった。しかし7回、味方の失策と思わぬ破綻が和歌山中を利し形勢いよいよ非なるを告げた。
 小林は最後まで身材に恵まれないが、球威もありカーブもよく変化あるモーションに和歌山中の打者とかなり苦しめた。最も惜しまれるのは敦賀商が7回に2点返して一死であった時、城戸が四球となるべき悪球をファウルして一塁手に捕らえれたのと5回の逸機であろう。

<3回戦> 和歌山中 4-3 静岡中
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
和歌山中 0 0 0 1 1 2 0 0 0 4
静岡中 2 0 0 1 0 0 0 0 0 3

 一進一退静岡中の優勢より、和歌山中の逆襲に大波乱を呼んだが7回以後、両軍投手の精神をこめた投球に変化なく静岡中を空しくした。静岡中はチームに覇気張り強味を一層増加した。投手鈴木は昨年の経験を土台として、速球と懸引に一きわ箔をつけ昨年より長足の進歩を示し十分な落ちつきに加え潑刺があり、一流チーム中の党首として錚々たるものであった。和歌山中に対して8安打、適時に打たれた嫌いはあったが、6回の失策に禍されることがなかったならば和歌山中に乗ずるべき機会はなかったかも知れない。しかも、静岡中の立役者遊撃鈴木吉がその回一塁に高投して、敗因を作ったのは悲運といえよう。8回静岡中が好打順を迎え反撃を思わせたが、両鈴木が凡飛、三振に終わったのは勝運から見放されたのであろう。
 和歌山中の勝因は、西尾を山下に代えたのが成功しその上退いた山下は攻撃を振ったことが挙げられる。初陣15才の少年、西尾投手は5回以後2安打に押さえ注目を浴びた。

<準決勝> 広島商 4-1 和歌山中
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
広島商 4 0 0 0 0 0 0 0 0 4
和歌山中 0 0 1 0 0 0 0 0 0 1

 広島は5回に好機を迎えたのみで、双方投手の好投で少しの乱れも見せず投手戦のまま終局に近づいた。
 和歌山中は前半の3点の挽回に努めたが、灰山の制球は意のおもむくところをつき、和歌山中打者を眩惑せしめた。和歌山中の安打僅かに3、広島商の勝因は1回立ち上がりよりの攻撃にあったのはいうまでもないが、この得点に気を良くした灰山が好投したのにある。相手相当のゲームを示すのは昨夏より広島商の家風とするところ、この試合の如きも正に好敵手を向かうに廻しそれに相応する試合振りを示したもので、不思議な力の持ち主として優勝試合に興味を残したものというべきであろう。
 和歌山中は学生らしい好ゲームだが、体力にやや劣り殊に山下の球威、制球に難があって1回に打ち込まれて西尾少年が和歌山中の運命を双肩に荷うに至った。しかも西尾は見事その責を果たして2回以後、5安打を浴びながら対静岡中戦の成績にやや劣ったけれど遂に広島商に1点も与えなかった健闘振りは15才の少年としてはむしろ出来過ぎといえよう。将来の大成を大いに期待したい。