第84回<平成14年>全国高等学校野球選手権

和歌山大会

<準決勝> 智辯和歌山 4-3 市和歌山商
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
智辯和歌山 0 0 0 0 2 2 0 0 0 4
市和歌山商 0 3 0 0 0 0 0 0 0 3

 少ない好機を着実に生かした智辯和歌山が、田林の力投で市和歌山商を振り切り、2年ぶりの決勝進出を決めた。
 3点を追う智辯和歌山は5回、堂浦の中前安打、本田の左翼線への二塁打で無死2、3塁とし、岡崎の中犠飛と暴投で2点。6回には「力みから変化球はすべてはずれた」という田村領の乱れを突き、2四球と犠打で1死2、3塁の好機。まず、嶋田の中前安打で同点。続く堂浦の2球目のスクイズは外されたが、挟殺プレーでの悪送球を誘い、決勝点をあげた。救援の田林は2回途中から登板で1安打に抑えた。
 市和歌山商は2回、八木の左越え本塁打で先制。「あとにつなごうとだけ思った」という山田の2点本塁打で序盤をリード。後半も機動力を生かして粘ったが、及ばなかった。

<準決勝> 田辺 1-3 日高中津
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
田辺 1 0 0 0 0 0 0 0 0 1
日高中津 1 0 1 0 0 0 0 1 × 3

 初回に1点ずつ入れた後は田辺・大平、日高中津・森の投手戦に。「1点取り合ったことで肩の力が抜けた」という日高中津が、無失策の堅実な守備と4番の決定打で緊迫した好ゲームを制した。
 同点で迎えた3回日高中津は失策と四球などで二死1、2塁とし、藤坂の中前安打で1点勝ち越し、8回は藤坂が左中間スタンドに本塁打を放ち、突き放した。森は丁寧な投球でピンチを切り抜けた。
 田辺は1回二死2塁から、春日の右中間への二塁打で先制した。だが、6回二死1,2塁で、一塁走者が森の牽制球に刺され、試合の流れをつかめないまま、涙をのんだ。

<決勝> 智辯和歌山 8-2 日高中津 
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
智辯和歌山 4 0 3 0 0 0 0 1 0 8
日高中津 1 0 1 0 0 0 0 0 0 2

 智辯和歌山が序盤に7点を奪って波に乗り、14安打の猛攻で圧倒して11回目の優勝を果たして、2年ぶりの甲子園出場を決めた。
 智辯和歌山は初回、嶋田の三遊間安打と本田の死球の一死1,2塁の好機に、4番岡崎が打席に立った。前の試合までは不振で、主将の自分で打線が途切れ、好機を逃してしまう。そんな焦りがあった。5球目。内閣をえぐるスライダーを「重圧を打ち返すように」右翼へ運んだ。一塁へ走った岡崎はベンチに向かってにっこり。紀三井寺で初めて見せた笑顔であった。
 続く西村の先制の2点適時打、山崎のスクイズ、馬場の二塁打で畳みかけ、一挙に4点。3回には、失策を足がかりに馬場の犠飛、北野、上野正、嶋田の3連打で3点を追加し、8回には北野が、本人も「びっくりした」という公式戦初の本塁打で8点を挙げた。1回途中から救援した田林は、日高中津打線を4安打1点に抑える力投を見せ、優勝への原動力となった。
 いきなり4点差となった日高中津は初回、「どんな劣勢に立たされても打ち崩してやろう」と打席に立った主将東が主戦本田の外角の直球を右前へ運んだ。犠打野選や四球などで一死満塁とし、大森の左犠飛で1点。3回にも東の左中間二塁打と大森の右前適時打で反撃した。8回には「開き直って思い切り振った」という渡邊の三塁打と四球で二死1、3塁としたが、田林の好投に阻まれた。25日の伊都戦を無安打無失点に抑える好投を見せた森は3回途中で無念の降板。「疲れはなかった。悔しいだけ」と声を詰まらせた。だが救援の間野が中盤、球威のある直球で相手打線を抑えた。
 日高中津は選手権大会初出場の夢は果たせなかったが、投手森を軸を堅守でシード校を打ち破り、大会を盛り上げた。

全国大会

<1回戦> 智辯和歌山 5-4 札幌第一
  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
智辯和歌山 1 0 0 0 0 1 2 0 0 1 5
札幌第一 0 0 0 0 0 0 0 1 3 0 4

 「苦しい展開。これが甲子園」。髙嶋監督は振り返った。9回、札幌第一に3点差から同点に追いつかれながらも、10回に勝ち越し。チームみんなでつかみ取った薄氷の勝利だった。
 9回裏、2点差に迫られた。なお二死満塁のピンチ。エース田林は、回を追うごとに右足の傷みがひどくなるのを感じていた。山川大に中前へ運ばれ、2人がかえり同点。ちょうど150球目だった。3回、先頭打者の野辺が放った打球が右ひざを直撃。横手投げ投手で最も重要な右足の踏ん張りがきかず、終盤になって決め球のスライダーの切れが悪くなっていた。走者3人を背負って、マウンドを引き継いだのは1年生の左腕滝谷だった。甲子園初マウンドの滝谷だったが、4球で三振に仕留めた。
 土壇場で同点に追いつかれた智辯和歌山の延長10回の攻撃。6番北野が、一死から右中間へ二塁打を放った。次の馬場は、タイミングをはずされた高めの変化球を捕らえると一塁線を抜ける適時打。これが決勝点になった。

<2回戦> 智辯和歌山 4-1 東邦
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
智辯和歌山 0 0 0 3 0 0 0 0 1 4
東邦 0 0 1 0 0 0 0 0 0 1

 序盤に先制された1点をすぐに逆転した智辯和歌山は、エース田林が耐えに耐えて東邦(愛知)打線を散発3安打に抑え、和歌山大会から初完投した。
「あかんたれ軍団が良くやってくれた。満点の試合や」髙嶋監督は試合後、甲子園通算40勝目を喜んだ。0-1とリードされた直後の4回攻撃。先頭打者本田の打球は二塁ベースに当たる内野安打。4番岡崎の三遊間安打で無死1,3塁。続く西村の打球は左翼手の前に落ち、ボール処理に戸惑う間に2人が一気に生還、逆転した。先発田林は1回、先頭打者に初球を三塁打され、さらに2連続四球。この満塁のピンチにバッテリーは球を散らし、冷静にコースをついて後続3人を打ち取った。この日の田林は9四死球と制球が乱れたが、厳しいコースをついた結果のボールで、甲子園3度目のマウンドで初めての完投勝利を飾った。

<3回戦> 智辯和歌山 7-3 智辯学園
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
智辯和歌山 0 0 4 0 3 0 0 0 0 7
智辯学園 0 0 0 0 0 0 0 2 1 3

 注目された兄弟校の甲子園対決は「弟校」の智辯和歌山に軍配が上がった。先発田林、救援滝谷で計11三振を奪う好投と2けた安打で、智辯学園に快勝した。
 両校無得点で迎えた3回表二死満塁。田中のスライダーを振りぬいた岡崎の打球は左翼線に飛び、満塁の走者3人がかえって3点先制。5回にも西村の二塁打などで3点追加。試合を優位に進めた。
 マウンドの田林は7回まで打者を4人か3人で抑え、真っすぐが決まり、スライダーの切れも鋭かった。奪った三振は8個。8回にやや疲れて降板したものの、「前半は甲子園に来て最高のピッチングでした」と振り返った。

<準々決勝> 鳴門工業 1-7 智辯和歌山
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
鳴門工業 1 0 0 0 0 0 0 0 0 1
智辯和歌山 0 1 4 0 0 0 2 0 × 7

 智辯和歌山は3回戦までの3試合で先発した田林ではなく、今大会初登板の本田を起用。これが当たり、攻めても3回に2本の本塁打を含む4連打で一気に畳みかけ、また一歩頂点に近づいた。
 大技あり、小技あり。智辯和歌山がしたたかな攻めを見せた。春の準優勝投手、丸山を脱帽させた3回の打撃は、一死無走者から始まった。嶋田が真ん中の直球を右翼席へ勝ち越しの本塁打。続く堂浦は初球を三塁線へ絶妙なバントヒット。次の本田とのヒット・エンド・ランが左翼線二塁打となり、堂浦がかえって逆転した。さらに岡崎の中越え本塁打で2点追加し、流れを引き寄せた。
 本田はコーナーを突く丁寧な投球で序盤のピンチをしのぐち、しり上がりに調子を上げ、6回以降は無安打で完投。公式戦初完投を甲子園のマウンドで成し遂げた。

<準決勝> 智辯和歌山 6-1 帝京
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
智辯和歌山 0 1 0 0 0 0 2 1 2 6
帝京 0 0 0 1 0 0 0 0 0 1

 2年ぶり3度目の全国制覇へあと一勝—智辯和歌山は帝京を破り、決勝進出を決めた。田林は強打の帝京打線を散発3安打に抑える好投を見せ、84回の歴史で県勢としては12回目の決勝進出となった。
 田林-岡崎のバッテリーの攻めがうまかった。低めに丁寧に制球されたスライダーを外角に、内角を直球でえぐる。飛球アウトが19.横の揺さぶりで的を絞らせず、帝京各打者のバランスを崩し、飛球で打ち取った。配球の切り替えも早かった。4回、外角のスライダーを中堅返しされると、5回には内角直球で二死を取るなど、より内角球を有効に使った。
 打線も終盤、北野の左中間本塁打や本田の右中間二塁打などの長打や、四球に犠打を絡ませて加点するなどそつなく攻めて田林を援護した。

<決勝> 智辯和歌山 2-7 明徳義塾
  1 2 3 4 5 6 7 8 9
智辯和歌山 0 0 0 0 1 0 0 0 1 2
明徳義塾 0 0 1 2 0 0 4 0 × 7

 走者を確実に送って快打を引き出す。硬軟織り交ぜた攻撃ができる実力校同士の対決は、打力に勝る明徳義塾が徐々に差を広げて快勝した。
 明徳は3回1死1塁から山田が送りバントをきっちり決め、沖田が右中間三塁打。先手をとると、4回は田辺、山口の本塁打で突き放した。長打はすべて直球が浮いたところを捕らえたもの。7回も無死からの走者を確実に送って山田、沖田、森岡の3連打と筧の犠飛でだめを押した。
 投げては田辺が緩急をうまく使った。伸びのある直球に緩いカーブを織り交ぜ、智辯和歌山打線を翻弄。球威が落ちた終盤は、外角いっぱいに球を集めてしのいだ。
 智辯和歌山も5回、上野正の中前適時打で1点を返し、9回には岡崎が中越え本塁打を放って意地を見せた。悔やまれるのは4回の攻撃。1死2、3塁からスクイズを外され、試合の流れを引き込むことができなかった。